北京オリンピック代表の河辺愛菜が加入

2022年、北京オリンピックでの河辺愛菜 写真=青木紘二/アフロスポーツ

 まだ、クラブの形作りの途上だ。アシスタントコーチは今後決まっていくことになるだろう。生徒を募集している最中でもあるが、その1人として北京オリンピック、世界選手権に出場した河辺愛菜が加わることになった。

 名古屋市出身、名古屋でスケートをしていた河辺は中学生のとき、もといたクラブから京都に移って励んでいたが、世界選手権後、「みてほしい」と河辺から依頼があった。

「愛菜ちゃんは今も家が名古屋にありますし、京都に移る際、一緒についていった弟さんの今後の受験のことなど家族のこともあって名古屋に戻ることを考えたようです」

 スケートにおいてどう取り組んでいくかなどはこれから話し合っていくと言う。

「電話で話していただけで、まだ一回も会っていないんですよ。ですから今後、具体的なことは相談していくことになります。能力のある、パワーのある子という印象があります。17歳なので表現などの面はまだまだですが」

 河辺自身はこう語っている。

「進学のことや家族のことを考えたりして決めました。美穂子先生にお願いしたのは、自分は表現ができていないと感じていて、大きく変わりたいと思ったからです」

 2人の言葉は、目指す方向、やるべきことが合致しているように感じさせた。

 31年、コーチとしての地位を築いてきた場を離れたことは、「安定を捨てた」ことでもある。すると樋口は言った。

「よく選手に伝える言葉があります。『現状維持では停滞していくよ、必ず上を目指していかないと停滞するよ、これでいいやと思ったらだめだよ』。それは自分自身に対しても言えることなのかな、と思います。それにこう思うんです。できるできない、よりも、やるかやらないかなのではないか、と。失いたくないとか、変わるのが怖いとか、人間、誰でもそういうところはありますよね。でも『こうしておけばよかった』と後悔するよりは、失敗したとしてもやったほうがいいんじゃないでしょうか。こえは自分の性格かもしれないけれど」

 最後に、選手時代も含め47年にわたり携わってきたフィギュアスケートへの思いを尋ねた。

「小さい頃からやっていて、好きなのかな? と考えたことはあるし、コーチになってからもやめたいと思ったことは何度もあります。ただ、こう思います。夢というのはかなわないかもしれないけれど、夢を持っていることでわくわくしたり、チャレンジしたり、やってみようかなと思える。私にとってはそれがフィギュアスケートです」

 話の間、終始楽しそうに話し続けた。

 一歩踏み出したことへの、「わくわくした」気持ちがそこにあった。 (終わり)

 

樋口美穂子(ひぐちみほこ)
山田満知子コーチのもとでフィギュアスケーターとして活躍し1981年の全日本ジュニア選手権2位、全日本選手権出場などの成績を残す。二十歳で引退し、山田のもとでコーチとなる。2022年世界選手権で優勝しオリンピックでも2大会連続メダルを獲得した宇野昌磨をはじめ、数々の選手の指導にあたる。また振り付けも数多く手がけている。