文=松原孝臣 写真=積紫乃

2023年3月23日、右から、世界選手権で優勝したペアの「りくりゅう」こと三浦璃来・木原龍一組、ブルーノ・マルコットコーチ、高橋成美さん 写真=長田洋平/アフロスポーツ

2人だけど1つに見える

 高橋成美は長年競技者として打ち込んだフィギュアスケートから、その多くを費やしたペアから、2018年3月に退くことを発表した。

「スケートをやめても、もっとみんなを喜ばせる。何かできることが未来に待っているんじゃないか、そんな気持ちもあって、引退というより次のステップにやっと踏み出せたという感覚でした。計画がはっきりとは定まっていたわけではなかったです」

 その頃と比べて、今は変化してきていると言う。

「やりたいことが具体化してきました。フィギュアスケートにももっと貢献していきたいですし、フィギュアスケートでは日本のペア競技に対する貢献がいちばん重要だと感じています。まずは認知を広げることが必要だとずっと思っていましたが、りくりゅうペアがほんとうに頑張って活躍してくれていることに助けられています。彼らが滑っている間は、解説という立場で伝えることができるので、彼らにチャンスをもらいながら、私は言葉で伝える役目だと思って取り組んでいます」

 解説者としての視点も持ちつつ、2019年夏のペア結成以来、数々の成果を残している「りくりゅう」こと三浦璃来、木原龍一の魅力をこう語る。

「2人のよさは、個人個人のスキルがとても高いところです。シングル選手としてもとても優秀だった2人ですし、ペアでも他のパートナーと活動してきた経験者です。しかもスキルの高い2人がお互いに合わせようという思いを持ってやっている。ほんとうにシンプルなんですけど、奇跡的な巡り合わせだと思っています。

 海外でも、思いはあるけれどスキルが足りなかったり、逆にスキルだけということもある中で、両方そろった選手が同じ目標に向かって一直線に頑張っているのがいちばんの魅力だと思います。

 膝のリズムなどもほんとうにぴったりです。2人で滑っているんですけれども、リズムがぴったりで1つに見えるから迫力が増すんですね。氷の上で1つのかたまりのようにも見えます」

 木原にも変化を感じとる。

「私と組んだ当時はまだ技の名前すら分からない状態で、何を言っていいのかも分からなかったんじゃないかと思います。ペアとしてどうしていけばいいんだろうと模索しているのを感じていました。

 実際はメンタリティだったり、日々やることだったり、シングルとそんなに変わるわけではないんですよね。だけどあまりにも未知過ぎて、シングルと違うものだと捉えて自信がなかったのかな、主張するところがちょっと弱くなってしまったりしたのかな、と思います。

 今はいろいろ経験してきて自信も持っているでしょうし、リーダーシップを取らなきゃという責任感もあると感じています。すごく変化したなと思いますけど、中身が変化したというより、もともと持っていたものを、やっと自信を持って出せるようになってきているのかな、と勝手に思っています」