文=松原孝臣 写真=積紫乃

なるちゃんとだったら目指せるよ

 マーヴィン・トランとのペアは解消したが、高橋成美に寄せられる期待は変わらなかった。団体戦にはペアが必要だが国内には皆無、キャリアも実績も抜きん出た高橋の存在が薄れることはなかった。

 そのとき、高橋がある話を耳にする。シングルで戦っていた木原龍一が今シーズン(2012-2013シーズン)限りでやめるという話だった。

「ちょっとやってみようかな」

 高橋は思った。

「またカナダに行ってするほど自分の体に対する自信がなかったのですが、日本人の選手と組んでやってみようか、みたいに思いました」

 2人はトライアウトを実施。2013年1月、ペアを結成したことが発表される。

 どちらが強く望んだのか。

「私ですね」

 高橋は答える。

「もともと仲良しで、シングルとペアで一緒にジュニアグランプリに出たりもしていて、ちょっとふざけてペアの真似事とかもしたことがありました。そのとき、ふと思ったんですね。背が高いし、腕をつかんだ感覚もすごくよかったし、一緒に練習したら楽しいだろうな、みたいなことを。そのときは思っただけでしたが、怪我やペアの解消が重なったタイミングで、団体戦がある、どうするというときに一歩踏み出して、『一緒にペアやりません?』って誘いました。

 本人は決断するのにすごい時間がかかりましたね。まだ大学が残っていましたけれど、ペアをやるとなると練習環境の問題で海外に行かないといけない。そうすると大学を卒業できないかもしれない。いろいろ考えていました」

 最終的に木原は決断する。

「『なるちゃんとだったら目指せるよ。なるちゃんとじゃなかったら絶対ペアなんかやらないけどね』、って。え、やってるやん、やめへんやん、って後からはつっこみたくなりますが(笑)」

 高橋は笑みを浮かべる。

「2人とも少年漫画好きで、中二病っぽいというかくさい言葉が好きで、2人の間だと『君のためだったら』みたいな感じでしたね」