文=松原孝臣 写真=積紫乃
昌磨の演技が好きだから
出水慎一は、2017-2018シーズン、宮原知子に加え、宇野昌磨のサポートも担うようになった。その翌シーズンからは宇野のみとなり、今日に至るまで宇野をサポートする。その中では、数々の場面に直面し、折々の宇野の姿をみつめてきた。
2018-2019シーズン、世界選手権を前に宇野は「結果を求めたい」と語った。従来の姿勢からすると異なる趣があった。その背景を出水は語る。
「2019年の四大陸選手権のときのことです。あのとき、靴が合わなかったり捻挫もしたりしていて、決していい状態ではなく、ショートプログラムは5位で終わりました」
オリンピックでメダルを獲ったあと、フェイドアウトしていく選手は少なくない。でも昌磨の演技が好きだから、もっと見ていたい、もっと続けてほしい。いつか世界大会で金メダルも獲ってほしい——。そんな思いが巡った。
「ショートが終わってケアしながら『昌磨のスタイルでやり切っていつか金メダルを獲れたらいいんじゃない? 』って言ったんですね。昌磨は自分が金メダルを獲ることで他の人が喜んでくれるんだと感じて、四大陸選手権ですごい頑張って優勝しました。そういう経緯があって、世界選手権のとき、『獲りに行きます』と発言をしたんです」
周囲を喜ばせたい一心での発言であったのだ。
「これはきつそうだな」
その翌シーズンの2018-2019シーズン、宇野の競技環境は一変する。
「あれは私自体もめちゃめちゃきつかった、という思いしかほんとうにないです」
出水はそう振り返る。宇野は長年籍を置いたスケートクラブを卒業。それは長年指導を受けたコーチのもとから離れることをも意味していた。新しいコーチが不在のまま、新たなシーズンに臨んだ。
「練習を見ていても完全に一人なので『これはきつそうだな』と思っていました。試合のとき、コーチが『こう言う』というのを想定してコミュニケーションをとるのも、パズルのピースが1個抜けたまま試合に私も入っている感じで、どうフォローすればいいかっていうのは全然私もみつからないというか」
グランプリシリーズのフランス大会では8位。ただ一人で座るキスアンドクライで涙を流す光景もあった。
その状況を救ったのは、ステファン・ランビエールだった。続くロシア大会でキスアンドクライにつくと、そののち、宇野のコーチになることが正式に決まった。以降、復調し、さらなる飛躍を遂げることになった。
「ほんとうにステファンには感謝ですね。ステファンとの相性もほんとうによかった。ステファンも選手を尊重し、選手に寄り添ってくれるタイプなので」