今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

 明治〜昭和期の日本において、博物学の分野に大きな足跡を残した知の巨人、南方熊楠。彼が著書の中で亜米利加獅(アメリカライオン)と記したのが、南アメリカ大陸のほぼ全域と北アメリカ大陸の広域に生息する、ネコ科の大型肉食獣ピューマ。そして、この動物が力強くしなやかにジャンプする姿をロゴマークとするドイツ生まれのブランドが、今回のテーマである。その名は“プーマ”。

 唐突なトリビアついでにさらに重ねると、「創業者ルドルフ・ダスラーとアディダスの創業者アドルフ・ダスラーが実は兄弟」なんてネタでもよく知られる同社。しかしながら、2023年で創設75周年にもなる長き歴史を彩ってきたアーカイブモデルの名と姿が、しっかり一致している者が世の中にどれほどいるだろうか。

“裏名品”をテーマに綴った前回の記事でも述べたが、クラシカルなローテク2種「スウェード」「クライド」の名が挙がれば拍手万雷。’90年代ハイテク期の名機「ディスクブレイズ」をご存知とあらば、そこそこ通の域。なればこそ本稿は千載一遇の好機。アニバーサリーイヤーで増す存在感を証明すべく、先述の3モデルを中心に名機5足を結集。その歴史と特徴に触れつつ、力強く美しい肉食獣がシーンに残した偉大なる足跡を追っていく。

 

1. PUMA「SUEDE VTG THE NEVERWORN II」

スニーカー¥14,300/プーマ(プーマ お客様サービス)

懐かしさと新しさが共存。プーマを象徴する永久定番モデル

 偉大なる足跡の一歩目は、やはりプーマの象徴的モデル「スウェード」しかないだろう。ルーツを遡れば、1968年に誕生したトレーニングシューズに行き着く。これが1973年、アメリカのプロバスケットボール選手、ウォルト・フレイジャーのシグネチャーモデルとして「クライド」の名で発売され、さらにそれを基に現在のスタイルが完成した。

 ここで紹介するのは、可能な限りオリジナルに近づけつつ、現代向けに仕様を変えた“ザ・ネバーウォーン”コレクションからの一足である。その名の由来でもある上質なスウェード素材のアッパーと、ヴィンテージ加工を施したミッドソールが織りなすローファイな雰囲気が絶妙に混ざり合い、懐かしくも新鮮な印象を見る者に与える。