「中途半端に降りてきてまた捻挫すると、試合自体アウトか、と思っていましたし、さすがに同じ所を短期間で2回捻挫するのは、やっぱりいいこととは考えられない。回転不足で降りてこないでくれ、ということだけは願っていました」

 ただ出場するという宇野を止めるつもりはなかった。

「彼は基本、歩けないという状況になったら棄権は考えるけれど、歩けるのならいける、という考え方です。もちろん医療的な観点でいくと、もう一回怪我したら……と考えて、休んだほうがいいとなると思います。いや、体のことを考えると棄権するのが絶対にいい。でも彼の性格なども踏まえ、後遺症が残る怪我なら絶対に止める、それ以外はGOする。昌磨の意思を全面的に尊重した上でバックアップするということです」

 結果、宇野は優勝を果たした。

「捻挫することで積み上げてきた跳び方ができないということで、感情が久しぶりに見えた試合だったですね。彼はほんとうに痛みに強いし、何回も捻挫するのである程度慣れているところがある。アドレナリンも出ていたので痛みをそこまですごく感じなかったのが救いだったですね。試合が終わって『ここも痛いですね』と言っていましたが、見ている方はここも痛いだろうなというのは分かっている。ただ本人が気づいていなかったら終わるまで言わないでおこうと思っていました」

 

「進化」よりも新しい形

 今は新たなシーズンへの準備を進める。

「今、彼が目指そうとしているのは、ジャンプもやらないといけないけれど、フィギュアスケートという本質、演技、つなぎ、表現、スケーティング。そういうところをもう一度やり直したいと話していたので、彼の中のフィギュアスケートというのを完結していける旅になったらいいかなと思っています。進化という言葉よりも、新しい形なのかなと。フィギュアスケーター宇野昌磨としてこれからの未来を作っていくのを見るのが楽しみです。彼のいい面は他の人と違う表現を見せることができるところだと思います。彼のスケーティングやスケートが好きですし、これからもサポートし続けたいですね」

 

出水慎一(でみずしんいち)スポーツトレーナー。国際志学園 九州医療スポーツ専門学校所属。 専門学校を卒業後、フィットネスクラブに勤務。18歳からスポーツ現場や整骨院で修行を続け、その後、九州医療スポーツ専門学校で学び柔道整復師の資格を取得。スポーツトレーナーとして活動する中でフィギュアスケートにも深くかかわり、小塚崇彦、宮原知子、宇野昌磨のパーソナルトレーナー等を務める。2018年平昌、2022年北京オリンピックにも参加している。