着ることで、演技にプラスになる衣装を

 宇野の『G線上のアリア』についてはこう話す。

「『グレー系で、セパレート、長袖で』というのが依頼の内容でした」

 それを受けて、いちばんに考慮したのは「彼の滑りがいちばん、それを壊さないこと」。

「動きやすいというのは大前提ですし、宇野昌磨選手がいちばんこだわるのもその部分です。その上で、本人の演技に、着ることでプラスになる、そういう感覚で取り組みました。衣装は凝ろうと思えばどれだけでもできるんですけれど、衣装ばかり目立つ、衣装が目立って素晴らしいというのが違うと思うんです。ですから変に豪華すぎず、ごてごてしないように抑えた感じで作っています」

 あらためて、折原は言う。

「デザインについて大それた話はないです」

 控えめに話す中でも、ディティールへのこだわりの徹底はうかがえる。例えばピンクの生地を用いるとしたら「ピンクでも10色くらいの生地を比べます。買って比べます。そのとき使えない生地も後で何かに使えると思いますので」。

 あるいはストーンの配置も輝きを計算し尽くしているし、ストーン自体も厳選している。

「一見、同じような色や輝くに見える石でも、よく見ると違うんです」

 差し出されたストーンは、どちらも同じに見える。相当時間をかけて見ても違いは分からない。でも、違うのだと言う。

「サイズも、ほんのちょっとした違いであっても、見え方が変わってきます。だから石もいろいろなサイズを買います。同じ石でも3種類くらいのサイズを、できれば4種類は買っておきたいです」

 生地は自ら染め上げ、繊細かつ鮮やかなグラデーションを生地に彩る。そうした1つ1つへの、細部に行き届いたこだわりがある。

 そのために、いつ使うともしれない素材を手元に置いてある。

「まだこれでも、足りないです」

 アトリエ中にある、さまざまな素材を見渡し、笑顔を見せる。

 細部にこだわり抜き、そしてそれを1つの作品としてまとめあげることができるからこその、衣装だろう。

 ただ折原は、服飾関連の学校に学んだわけではなく、衣装デザイナーを目指していたわけではない。

 どのようにフィギュアスケートの衣装デザイン・製作へと向かったのか。

 そして、素材をはじめディティールへのこだわりにとどまらない、衣装を作る上での思いとは何かをたどっていきたい。(続く)

 

折原志津子(おりはらしづこ) 衣装デザイナー。フィギュアスケートの衣装のデザイン、製作を一貫して行なう。東京藝術大学工芸科を卒業後、ドイツの美術専門大学に留学。その後フリーランスでニット・アパレル・クラフトのテレビや書籍、雑誌等の仕事を経て、2007年にMu-costume designを立ち上げる。