文=松原孝臣 撮影=積紫乃
キャリアハイだった昨シーズン
約束していた取材の場所に姿を見せた三原舞依は、いつものように丁寧な挨拶とともに席につくと、こう語った。
「思っていたのと、シーズンを通しての過ごし方は違うものになってしまっています」
穏やかに、まずは今シーズンを振り返り始めた。
昨シーズン、三原はキャリアハイと言える成績で駆け抜けた。グランプリシリーズは2大会ともに優勝し、初めて進出したグランプリファイナルでは初優勝。全日本選手権で2位となった三原は、6年ぶりに世界選手権代表に選ばれた。
その世界選手権では、大会を前に右足を負傷した影響はあったが5位となる。何よりもその演技は観る者を魅了した。4月には国別対抗戦に出場。充実したシーズンを過ごしたあと、変調は夏の終わりに訪れた。
「けっこう痛みが出始めて」
それは右足首だった。
「世界選手権のときとは違うところです。あのときはジャンプしてトウを突いたときにひねったような感じの痛みだったんですけど、別のところが痛くなってしまって。どこかしらいつも痛いところはあるんですけど、治療をするために長い期間休まないといけないって言われるようなものじゃなかったので、最初に痛みを感じたときはちょっと休んだら治るというくらいの気持ちでいました」
だが、休んでも痛みはとれない。
「最初は湿布や痛み止めでなんとかしていたんですけど、それでも全然痛みが治まらなくて練習に行けなくなっちゃったり、どうしたらいいのか分からなくなってしまって。ちょっと休んだらよくなるだろうと思っていたんですけど、なかなか痛みがとれないまま月日がどんどん経ってしまって」
「病院に行くのもちょっと怖かったり」した三原は、ついには診察を受けた。
「診てもらうと、ただの痛みじゃないのが分かりました」
出場を予定していた近畿選手権、中国杯は欠場を強いられた。
11月下旬に開幕するNHK杯が迫っていた。足の状態は回復にはほど遠かったが三原は出場を決断する。中野園子コーチは「(大会の)1週間前まで歩くのがやっとでした」、出場は「本人の希望でした。1回も試合に出ていなかったので試合の感覚とかいろいろなことが不安だったでしょうし」と大会後に明かしている。
その状態の中、三原は出来得る限りの演技を披露する。ショートプログラム4位で迎えたフリー。事前のシミュレーションに加え、滑りながら今何がベストかを考え、予定していたジャンプの構成を変更しながら滑り終えた。
「十数年スケートをしてきた中での経験がいきた部分です」
と、三原は試合後に語った。まさに積み重ねてきたキャリアあってこその演技を、中野コーチも称えた。
「いろいろな経験をいかしてまとめましたので、さすがだなと思います」
NHK杯までの状況を考えれば、フィニッシュまで滑り切るのも容易なことではない。その中にあって、これ以上はないと言える演技を披露し、8位で今シーズンの初戦を終えた。