「ゴーン事件」の反省どこへ

 日産は「ゴーン事件」を反省してコーポレートガバナンス強化のために、19年6月から取締役の過半数を社外取締役が占める指名委員会等設置会社に移行した。これに伴い社外取中心に構成される報酬委員会が退職慰労金を含めた役員報酬を決めることになった。社外取締役は株主など外部のステークホルダーの視点で報酬を決めるべきだが、そこが機能していないのではないか。

 また、日産では旧来の執行役員制度を全廃し、副社長、専務、常務といった肩書もなくした。執行役以下55人いた執行体制は12人とし、意思決定の迅速化を図った。

 専務や常務で会社に残った人は、「執行職」の肩書が与えられたものの、役員という位置づけではなくなった。しかし、「実態は、送り迎えの社用車がなくなったくらいで、報酬は全く変わっていないのはおかしい」といった不満の声が社内からは出ている。

 今の日産の実態を見ていると、「会社は頭から腐る」と言わざるをえない。日産にはまだやる気のある現場社員も残っている。エスピノーサ社長が進める経営再建計画「RE:NISSAN」の成否も、いかに現場が頑張れるかにかかっているのではないか。

 日産を極度の経営不振に落ち込ませた経営責任がある元役員に納得感のない巨額の退職慰労金を支払っているようでは、経営再建に向けての士気に影響するだろう。

井上 久男(いのうえ・ひさお)ジャーナリスト
1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。