三菱自動車のバッジをつけてユーザーの支持を得られるか

 台湾ではBEVの販売台数はまだ多くはないが、今年4月に日産自動車「アリア」が台湾カー・オブ・ザ・イヤーの大賞を受賞するなど注目度は上昇中だ。

 n7は台湾の独自開発による高性能BEVということで、台湾ユーザーからは誇らしく思われている。比較対象のリファレンスとされるモデルもテスラ、日産、アウディ、BMWなどBEVの強豪が多く、見る目も厳しい。

 そういった感情を含んだものとしてフォックストロン車の現在地を推測すると、中国勢、既存の先進国勢のキャッチアップに向けて成長途中といったところだろう。n7は初期にはいろいろ問題も起こったものの、その大半がOTAによって自動的に解消したというレポートが多くみられる。

 また発売後しばらくして支え棒がなくともボンネットを開放状態にできるボンネットダンパーが追加されたが、それがない仕様の既納客にもディーラーで追加する措置が取られたという。顧客満足度向上への取り組みはかなりアグレッシブだ。

7人乗りクロスオーバーの「n7(モデルC)」(写真:AP/アフロ)

 三菱自動車に供給されるとみられるモデルBはn7(モデルC)よりも世代が新しい。OEM供給を受けてラインアップを補完するにせよ、スリーダイヤのエンブレムをつけて販売する以上、評判を下げるような出来では選ばれまい。仮にも量産BEVのパイオニアである三菱自動車がこれでいけると判断しただけの出来は期待していいだろう。

 しかし、モデルBが日本に投入されるかどうかは現時点では未知数だ。現在、日本ではBEVの販売がきわめて低調で、導入のコストや手間を考えると三菱自動車にとってのメリットは薄い。また三菱自動車が自身の意思と技術を込めて作ったモデルではないだけに、クルマとしての出来が良かったとしてもユーザーの支持を取り付けるのは容易ではない。

 三菱自動車と鴻海の協業は現時点では拘束力のない覚書の段階であり、すべてはこれから始まる。鴻海は2027年までに日本にBEVを投入したいという意向を明らかにしている。モデルBのOEM供給で相互の信頼感が高まれば、鴻海開発のBEVの日本市場投入、さらにその先、三菱自動車の商品企画による開発受託にこぎつけられる可能性も出てくるであろう。

2025年4月、東京都内でEV戦略に関する説明会を開いた鴻海CSO(最高戦略責任者)の関潤氏(写真:ロイター/アフロ)

 開発受託は鴻海にとっても長期ビジョンの本丸であり、先進国メーカーで初となる三菱自動車との協業はそれを実現するための重要な橋頭保と言える。これからどんなストーリーが飛び出すのか、大いに楽しみなところだ。

2024年に公開されたラージクラスのミニバン「モデルD」(写真:AP/アフロ)

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。