第10部 「2050年までの露エネルギー戦略」概観
10-1. ロシア政府「2050年までの露エネルギー戦略」採択:
露政府は今年4月14日、2050年までの露エネルギー戦略(2025年4月12日付け露政令#908-r)を採択・承認、全文が公開されました。
計107ページの大著ですが、本稿では石油・ガス関連部分のみご報告いたします。
同文書では2050年までの各種シナリオ別原油・天然ガス・石炭生産量予測が一覧表になっています。
ここでは「目標」「慣性」「ストレス」のシナリオ別生産量予測推移をご紹介します。
戦略要旨 : 露エネルギー(石油・ガス・石炭等)の安定的生産と国内供給、及び輸出拡大を目指す。
目標シナリオ:外資・海外技術を積極的に取り入れて、大規模投資により生産回復を目指すシナリオ。
2050年まで原油年間5.4億トンの持続的生産目指す/国内ガス化推進/
石油・ガス精製事業の発展推進/北洋航路潜在力活用と積極的利用等。
慣性シナリオ:新規投資等の積極的対策を講じない場合、原油生産量と輸出量は低下するシナリオ。
ストレスシナリオ:対露経済制裁が持続した場合、原油生産量は急減して2050年に輸出がゼロになる予測。
目標シナリオでは「2050年まで持続的原油生産5.4億トンを目指す」と明記されていますが、ウクライナ即時停戦・撤退を実行しない限り、外資が今後ロシア市場に戻ることはあり得ません。
換言すれば、目標シナリオの実現は画餅であり、現状ではストレスシナリオが一番現実的予測と筆者は判断します。
10-2. 原油生産量・輸出量実績推移:
現在ロシアでは露原油生産量・輸出量は発表されていませんが、この『2050年までの露エネルギー戦略』では、2012年から2023年までの原油と天然ガスの生産量・輸出量一覧表が明記されています。
参考までにグラフを作成してみました。最近は包括的資料が少ないので、結構有意義な情報です。

10-3. 2050年までのシナリオ別原油生産量・国内供給量・輸出量予測:
2050年までの原油生産量・国内供給量・輸出量予測推移は下記グラフの通りです。
「ストレスシナリオ」では、生産量減少により2050年には輸出量ゼロになるとの予測です。

10-4. 天然ガス生産量・輸出量実績推移:
2012年から2023年までの天然ガス生産量・国内供給量・輸出量実績推移は下記グラフの通りです。
2022年のウクライナ侵略戦争開始後、ロシア側作成の公式資料でも天然ガス生産量と輸出量が激減していることが分かります。

10-5. 2050年までのシナリオ別天然ガス生産量・国内供給量・輸出量推移 (bcm=10億立米):
天然ガスのシナリオ別生産量・国内供給量・輸出量推移は下記グラフの通り楽観的予測です。

天然ガス輸出量(PLガス+LNG)推移は下記の通りですが、LNG輸出拡大は画餅と筆者は判断します。

ロシアは2030年までにLNG生産1億トンを目指しますが、これは不可能です(LNG1トン≒1400m3)。
露LNGプロジェクト名 | 現況 | 年産能力(百万屯) |
---|---|---|
サハリン-2 | 稼働中 | 9.6 |
ヤマルLNG | 稼働中 | 17.4 |
Arctic LNG-2 | 第①工場稼働中/第②工場建設中 | 19.8 |
ウスチ・ルガ | 建設中 | 13.2 |
オビLNG | 計画中 | 4.8 |
ムルマンスクLNG | 計画中 | 20.4 |
Arctic LNG-1 | 計画中 | 19.8 |