第9部  ウクライナ戦況概観/米国、停戦仲介放棄?

 ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、プーチンのウクライナ侵略戦争は既に3年3か月目に突入しています。

 一方、米国では今年1月20日に第2次トランプ政権が誕生。トランプ新大統領による本格的なウクライナ戦争停戦交渉が始まりましたが、戦闘はむしろ激化の一途。

 米国の仲介放棄も視野に入ってきました。

 モスクワ赤の広場では今年5月9日、対独戦勝記念80周年記念軍事パレードが予定されています。

 プーチン大統領は5月9日までにウクライナ戦争に勝利して、プーチン大統領・習近平国家主席・金正恩総書記の3人が「赤の広場」の雛壇に並び、軍事パレードを閲兵する姿を夢想していたことでしょう。

 ロシア近・現代史においてロシアが負けた戦争は2つあります。

 クリミア戦争(1853~56年)とソ連・アフガン戦争(1979年12月~99年2月)です。

 この2つの敗戦に共通している点は、開戦者と終戦(敗戦)者が異なることです。

 クリミア戦争は皇帝ニコライ1世が開戦、皇帝アレクサンドル2世が終戦(敗戦)。

 アフガン戦争はブレジネフ書記長が開戦、ゴルバチョフ書記長が終戦(敗戦)。

 この史実から演繹されることは、プーチン・ゼレンスキー両氏がいる限り終戦の形は見えてこないということになります。

 第三国からの停戦交渉圧力以外、戦争当事国の指導者は敗戦を認めないでしょう。

 現状の戦闘最前線を停戦ラインとする案は誰でも考え付く安易な案にて、これを認めれば19世紀の帝国主義的戦争思想が21世紀に開花することになります。

 ゆえに、この案は実現しないと考えます。筆者が一番合理的と考える停戦の姿は下記の通りです。

●ウクライナはクリミア半島をロシアに返還する(←元々ソ連邦ロシア共和国の行政管轄地域)。

●ロシアはウクライナ東南部4州から撤退する。

 トランプ大統領は4月17日、停戦条件としてクリミア半島のロシア返還を提案した由。

 筆者も賛成ですが、これはあくまでもロシア軍の東南部4州からの撤退との交換条件になります。

 ここで、ウクライナ戦況を概観します。5月1日朝のウクライナ参謀本部発表によれば、ロシア軍が全面侵攻した2022年2月24日から5月1日朝までの露軍累計損害は以下の通りです。

 もちろん、新規に生産、あるいは修理している兵器もあるので、あくまでも一つの参考情報として記載する次第です。

 
ロシア軍期首総兵力
(2022年1月23日付け Global Firepower / 参謀本部発表、2022年1月時点)
ロシア軍被害
ウクライナ参謀本部発表(2022年2月24日~2025年5月1日累計)
露軍被害割合(%)ウクライナ参謀本部発表
総兵力:85万人(+追加30万人) 戦死傷者:95万3190人 82.9%
戦車:1万2420輌 1万732輌 86.4%
装甲車:3万0122輌 2万2364輌 74.2%
軍用機:1511機 370機 24.5%
軍用ヘリ:2087機 335機 16.1%
軍艦:605隻 28隻(+1隻 潜水艦) 4.6%

 西側発表によれば、露軍戦死者数は20万人以上と推測されています。

 戦闘では戦死者1に対し戦傷者は3~4の割合で発生すると言われており、露軍戦死傷者数は恐らく100万人近くに上るのではないでしょうか。

 換言すれば、北朝鮮軍正規兵や中国人傭兵部隊の戦場投入は露軍にとり必要不可欠となります。