コメは「最後の砦」
「それでも、日本はコメさえ自給できれば大丈夫だ」
いまから20年以上も昔から、食品の開発輸入の現場を取材してきた私に、ある食品加工メーカーの社長がそう言ったことがある。国土も決して広いとは言えず、1億人を超す人口の豊かな食生活を支えるには、どうしても海外に依存しなければならない事情もある。だが、食料安全保障を守るにはコメだけは100%の自給は欠かせない。
世界が貿易自由化へ進む中で日本は、ミニマムアクセス米77万トンを毎年受け入れてきた。貿易不均衡を避けるため、関税なしで受け入れる輸入米だ。この77万トン以外の民間輸入には、1キログラムあたり341円の関税を支払うことになる。そうやって日本は主食のコメを守ってきた。100%の自給を維持しようとしてきたはずだった。
ところが、国内のコメの高騰で、341円の関税を支払っても輸入米のほうが安く買えるという現象が起きている。コメの供給不足から外食チェーンでは既に輸入米を混ぜて提供しているほか、イオンでは4月から米国産米と国産米を8対2でブレンドした「二穂の匠(にすいのたくみ)」を販売している。価格も4キログラムあたり2780円(税抜)と割安であることは間違いない。主要商社・コメ卸だけで、2025年度の輸入量は約70万人分の年間消費量の4万トンを超え、前年の20倍前後に達する見通しとも報じられている。
明らかに食料安全保障が内側から崩壊している。その上で、政府が一時的であれ、米国からのコメの輸入を増やせば、開いた扉を閉じることは難しくなる。もはや食料安全保障の放棄だ。
兵糧攻めという言葉があるように、食料の供給を国外に依存してしまうと、相手国に対してどうしても従属的、硬直的にならざるを得ない。米国政府が食料を、通常兵器、石油(エネルギー)に次ぐ「第3の武器」と言ったのは50年前のことになる。
日本が米国に食料を依存するあまり、あるいはそう操作されて、従属関係に陥る構造を私は「食料植民地」と呼んだ。そのタイトルの著書もある。このまま、コメの自給も維持できないようでは、もはや国家としての崩壊でしかない。ここへきてのコメの価格高騰、供給不足は、明らかに日本農政の失敗であり、国の存亡に関わる重大な問題である。