縄文人の糞石から明らかになった事実

西村:DNA解析から明らかになったウイルスゲノム配列から、糞石に存在するウイルスの99.89%がファージ、0.07%が真核生物、0.04%がアーキアウイルスであったことが明らかになりました。

 大部分を占めるファージは、ヒトではなく、細菌に感染するウイルスです。この研究で利用した検体が糞石であることから、縄文人の腸内には腸内細菌に感染するウイルスがたくさん存在していたことが推測されます。

──そのウイルスは、人体に悪影響を及ぼすものなのでしょうか。

西村:間接的に悪影響を及ぼすこともあれば、良い影響を及ぼすこともあると考えています。

 腸内細菌の中でも、健康に良い影響を及ぼすものと、疾患などと関連するものが存在します。俗に言う善玉菌、悪玉菌です。

 ファージは、そのどちらにも感染します。その結果、善玉菌や悪玉菌のバランスが変化し、健康に良い影響が出たり、悪い影響が出たりすると考えられます。また、ヒトの免疫応答に直接的・間接的に影響を及ぼすこともわかっています。

 長期的に保存されている古代DNAは、劣化し、断片化することが知られています。この研究で使用した検体のDNAとて例外ではありません。現在のヒトの腸内に存在しているウイルスのゲノム配列と類似したゲノム配列を検体から見出すことはできましたが、具体的なウイルス名まで落とし込むことはできませんでした。

 したがって、今回の研究で私がゲノム配列を決定したウイルスの宿主も、種レベルで同定するまでには至っていません。ただ、先行研究で解明されたファージ-宿主ウイルスの対応関係を用いることで、ファージと感染先の宿主腸内細菌に類似する配列を同時に同定しています。つまり、ウイルスと宿主の長期的な共存関係を示唆しています。

──糞石に存在するウイルスの0.07%が真核生物という話もありました。

西村:今回見つかった真核生物のウイルスは、主にヒトを宿主とするウイルスです。今回のサンプルである糞石からは、ヘルペスウイルスやアデノウイルスなどと類似したウイルスゲノムを見出すことに成功しました。

 これは、糞石の主である縄文人が、そのようなウイルスに感染していた可能性を示唆しています。このような病気を引き起こすウイルスが、何千年も前から存在していたことが示唆されました。