コメの譲歩で考えられる3つの可能性
MA米制度は一定数量の外国産米を無関税で輸入する仕組みであり、その枠内であれば高額の税率はかからない。しかし、その用途はあくまで備蓄用・加工用・外食用であり、家庭用への流通は対象外とされた。国内コメ市場は名目的に開放されたものの、実質的にはブロックに成功したわけである。
また、米国が主導し、日本が2013年に参加した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)でも、コメの輸入自由化が争点化した。この時も、日本は米国産に限って年間7万トンの特別輸入枠(特別枠)をMA米と別に設けることで乗り切っている。
ただ、これも政府備蓄米の用途に限られており、家庭用への流通には至らなかった。その次にやってきた交渉が第一次トランプ政権時代の2019年だが、ここでも政府は農業5品目(コメ・麦・牛肉・乳製品・砂糖)を一切譲らなかった。
こうした歴史的経緯を振り返った上で今回の難局に目を移した場合、必然的に譲歩案の可能性は見えてくる。端的には、(1)MA米の用途緩和、(2)米国特別枠の拡大、(3)加工用・外食用の開放などである。
上述した歴史を見れば分かるように、外国産米については輸入枠や用途制限を設けることで交渉を乗り切ってきた。それに沿った予想を立てることになる。
例えば、(1)に関し、MA米は現在、政府が買い上げて備蓄・加工・援助用などにその用途を限定している。これを一部に限って家庭用も容認する方法などはあり得る。MA米の枠内での議論であれば関税率は維持できる。
また、(2)に関し、TPP交渉で米国専用の輸入枠を設けた経緯を踏まえ、その枠を拡大するというのもシンプルである。米国に限定する特別措置ゆえ、トランプ大統領の印象は良いかもしれない。
国内の年間主食用のコメ需要量は2023年で約680万トンである。TPPを通じて設定された特別枠は7万トンだったので1%程度である。これを少し拡大するだけで印象を変えられるのであれば悪い話ではないように思える。
最後に(3)は冷凍食品やコンビニ弁当もしくはレストラン(外食)などの業務用に限って輸入を認めるというアプローチであり、「家庭用以外は市場開放する」という手法である。これならばディスインフレを願う飲食店や消費者の願いに応えつつ、農家保護の側面も残すことができる。
もちろん、第4の選択として完全な輸入自由化もあるわけだが、その難易度はあまりにも高いのだろうと察する。日本の国内コメ市場は米国から見ても聖域であり、すべてを獲得できることは期待していないだろう。
輸入枠や用途制限を織り交ぜた周辺的な緩和をうまくアピールしながら、自動車や為替などで極端な譲歩を強いられないようにする交渉方針が基本となってくると予想する。