マイナー契約の上沢は「キャンプ招待選手(Non Roster Invitee=NRI)」としてレイズの春季キャンプに参加。メジャー契約できれば250万ドル(約3.6億円)となる条件だったが昇格を果たせず。メジャー昇格できなかった場合には移籍が可能なオプトアウト(契約破棄)条項を結んでいたので、これを利用してトレードでボストン・レッドソックスに移籍、メジャー契約を結んだ。しかしポスティングシステムは「移籍先のMLB球団」との間の契約なので、日本ハムへの譲渡金は増額されなかった。

 上沢はMLBでは2試合投げただけ、0勝0敗4回、防御率2.25の成績に終わり、2024年シーズンの大半を、レッドソックスのマイナーで過ごした。

レッドソックス時代の上沢直之投手(写真:共同通信社)

 なぜ、上沢だけがMLBでの評価が極端に低かったのか? そして、アメリカで活躍できなかったのか?

MLBで通用する能力、通用しない能力

 MLBは、野茂英雄のMLB移籍以来、30年にわたってNPB出身日本人投手を獲得する中で、一定の価値基準を持つに至ったと考えられる。

 NPBの野球のレベルは高く日本人投手は優秀ではあるが、NPBでの成績が、そのままMLBで互換されるわけではない。NPBでも特定の能力を有した投手だけが通用する。

 いくつかの指標があるが、端的に言えば、それは「球速」「奪三振率=K9」「与四球率=BB9」だと考えられる。「球速」は文字通りスピード、球威、「K9」は空振りが奪えるマネーピッチの有無、「BB9」は制球力を表す指標だ。

 現役で活躍するNPB出身のMLB先発7投手の、NPBでの最終年の最高球速、K9、BB9と、MLBでの実績を並べればこうなる。

ダルビッシュ有(2011年/日本ハム)
 最高球速158km/h K9=10.71 BB9=1.40
 MLB通算12年 110勝88敗1706回2007奪三振 防御率3.54

前田健太(2015年/広島)
 最高球速152km/h K9=7.63 BB9=1.79
 MLB通算8年 68勝56敗978.2回1047奪三振 防御率4.17

大谷翔平(2016年/日本ハム*)
 最高球速164km/h K9=11.19 BB9=2.96
 MLB通算5年 38勝19敗481.2回608奪三振 防御率3.01

菊池雄星(2018年/西武)
 最高球速157km/h K9=8.41 BB9=2.47
 MLB通算6年 41勝47敗809.2回837奪三振 防御率4.57

千賀滉大(2022年/ソフトバンク)
 最高球速164km/h K9=9.75 BB9=3.06
 MLB通算2年 13勝7敗171.2回211奪三振 防御率2.99

山本由伸(2023年/オリックス)
 最高球速159km/h K9=9.27 BB9=1.54
 MLB通算1年 7勝2敗90回211奪三振 防御率2.99

今永昇太(2023年/DeNA)
 最高球速153km/h K9=10.58 BB9=1.46
 MLB通算1年 7勝2敗90回211奪三振 防御率2.99

*大谷翔平は最終年の2017年は5試合しか登板していないので2016年とした。

 これら7人の平均の数値は、

最高球速158.1km/h、K9=9.65、BB9=2.10

 となる。これは端的に言えば「パワーピッチャー(奪三振能力が高く、制球力も良い本格派の先発投手)の指標だといえる。