23日には、サウジアラビアで、アメリカとロシア、アメリカとウクライナの協議が行われる予定である。今のところ、プーチンのペースで交渉が進められており、トランプの狙う早期実現は容易ではない。

ミュンヘン会談

 私は若い頃、フランスやドイツなど欧州諸国で、ヒトラー時代のヨーロッパ外交史の研究に励んだ。その研究成果を振り返ってみて、今のウクライナ停戦交渉が、1938年9月のミュンヘン会談によく似ているという危惧の念を禁じえない。

 この歴史上有名な会談から、多くの教訓を引き出す必要がある。ヨーロッパ諸国がトランプのディールに懐疑的なのは、「ミュンヘンの宥和」が第二次世界大戦を引き起こしたことを忘れていないからである。

 1938年9月、ミュンヘンに、ドイツのヒトラー、イギリスのチェンバレン、フランスのダラディエ、イタリアのムッソリーニの4首脳が集まり、チェコスロバキアのズデーテン地方をドイツに割譲することを決めた。その要求が容れられなければ戦争も辞さないとするヒトラーの強硬姿勢を前に、英仏が妥協したのである。その結果、戦争は回避された。しかし、この妥協が、1年後の第二次世界大戦の引き金となったのである。これを「ミュンヘンの宥和」という。

ミュンヘンに集まった英仏独伊の首脳。左からチェンバレン、 ダラディエ、ヒトラー、ムッソリーニ、チャーノ伊外相(Bundesarchiv, Bild 183-R69173 / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 DE, ウィキメディア・コモンズ経由で)

 今回のウクライナ停戦交渉と重ね合わせると、ヒトラーがプーチン、チェンバレンがトランプ、そしてチェコスロバキアがウクライナである。性格的には、すぐ激高する点など、ヒトラーとトランプはよく似ている。しかし、役割は別である。