ドルの受け皿としての金の能力には限界
経常収支と財政収支の「双子の赤字」の問題が表すように、米国のマクロ経済運営には大いに問題がある。またトランプ政権が誕生してからは、経済的には不合理な通商政策が推し進められている。
こうしたことが米ドルの信用力を削いでいる可能性には留意すべきだが、一方で米ドルには他の通貨や資産にはない流動性の高さという武器がある。つまり、いつでもどこでもだれでもが交換に応じる強さを米ドルは持っている。
この能力で米ドルに勝る通貨も資産も、今のところは存在しない。別の表現をすれば、確かに金の価格は高騰しているが、それはあくまで投機的か、あるいは逃避的な流れに過ぎず、金そのものの信用力が高まっていることを必ずしも意味しない。
新興国を中心とする金購入の流れは、確かに一種のドル不安を反映しているが、かといって金が米ドルに代わる世界の決済手段となることは、まずない。グローバルマクロの観点から判断しても、新興国を中心とする金購入の流れはアセットアロケーションの一環であり、本質的な意味での「ドル離れ」を意味するものではないと判断される。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。