「人生、無駄なことはない」

 2007年限りで現役を引退。1年間社業に就いたあと、2009年にコーチとなり、2014年からは監督に就任。2017年には都市対抗野球大会で36年ぶり2回目の優勝に導いた。

 32歳で現役を引退しました。現役時代はずっと、心のどこかに「あのケガがなければ……」という思いがありましたね。

 監督になったときにようやく「プロに行けなくてよかったな」と思えるようになった。都市対抗で優勝したときは「あのケガがあったから、今があるんだな」と思えました。

「人生、無駄なことはない」。これが私の座右の銘です。高校時代に甲子園に出られなかった。大学では投手から外野手に転向した。ケガでプロの可能性がなくなった。私の現役時代は挫折の連続ですよ。

 それでも野球が大好きで、楽しくて、心が折れずに続けられた。だからこそ、すべての経験が今につながったんだと考えています。

 もしかしたら別の人生があったのかもしれません。でも、私は今、とても幸せです。

 近年はNHKの高校野球中継の解説に呼んでいただいたり、本を2冊も出版させていただいたり。「人生、無駄なことはない」という言葉の意味がドンドン大きくなっています。

 ですから、もしケガをした人や挫折を味わった人がいたら「今は暗闇でも、トンネルの先には必ず光がある。この経験を今後に生かせよ」と言って、そっと背中を押してあげたいですね。(後編に続く)

【後編】小学校から日本代表まで、あらゆる年代で主将を務めた社会人の名将が語る「チームの力を最大化する方法」

飯塚智広(いいづか・ともひろ)
1975年千葉県鎌ケ谷市生まれ。二松學舍大附属沼南高校ではエースとして2年夏の千葉大会で準優勝。亜細亜大学では外野手として東都大学リーグのベストナインを2度受賞。4年春にはリーグ連覇に貢献して最優秀選手となり、大学選手権で準優勝。大学日本代表として日米大学選手権に出場した。1998年にNTT関東に入社。日本選手権で初優勝に貢献して優秀選手となる。翌年からNTT東日本に転籍。2000年にはシドニー五輪の日本代表としてプレーした。2007年に現役を引退。2009年からNTT東日本のコーチとなり、2014年に監督に就任。2017年の都市対抗野球大会でチームを36年ぶりの優勝に導いた。2022年からNTT東日本シンボルスポーツ担当課長。同年よりNHKの高校野球中継の解説者を務めている。著書に『やってみよう野球』『野球IQを磨け! 勝利に近づく観察眼』(ともにベースボール・マガジン社)がある。

佐伯 要(さえきかなめ)
1971年和歌山県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業後、16年間のスポーツメーカー勤務を経て、2009年にスポーツライターに。「取材の量と原稿の質は比例する」をモットーに、野球を中心に取材・執筆している。著書に『1980年早実 大ちゃんフィーバーの真実』(ベースボール・マガジン社)がある。