AfD外しの大連立が濃厚
今回のドイツ総選挙では、全体の投票率が82.5%に達しました。1990年の東西ドイツ統一後では最高の数字です。国民の高い関心が続くなか、CDU/CSUを率いるメルツ氏は自らを首相とする連立政権を4月20日のイースター(復活祭)のころまでに発足させたい考えです。
連立のパートナーとして想定しているのは第3党に転落したSPDです。保守とリベラルの2大政党による「大連立」ですが、ドイツでは前例があります。直近では2017年の総選挙で議席を減らしたCDU/CSUのメルケル氏がSPDと連立を組みました。
注目を集めるAfDは与党になるのでしょうか。
メルツ氏は、AfDとの連立を否定しています。ロシアに対して融和的なAfDを批判し、選挙結果にかかわらずAfDとは協力しないという協定を他の主要政党と結んでいました。この協定は「ファイアウォール(防火壁)」と呼ばれています。AfDは総選挙での躍進を背景に政権入りを要求していますが、メルツ氏は受け付けない考えです。
外交・安全保障面はどうなるでしょうか。
メルツ氏は総選挙での勝利を受けて「ドイツは欧州で再び指導的役割を果たす」と述べ、ドイツが主導して欧州の結束強化を目指す考えを強調しました。
米トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に大幅な防衛費の負担増を求めるなど、欧州と距離を置く姿勢が明らかです。そのなかで、メルツ氏は「米国に頼らない独自の防衛力を欧州が整備すべきだ」との考えを示し、フランスや英国などとの連携を模索しています。
欧州各国では極端な政策で人気を集めるポピュリズムや極右政党の台頭が顕著です。
2024年 9月のオーストリア議会選では極右の自由党が第1党となりました。同11月のルーマニア大統領選ではロシア寄りの無名候補がSNSを駆使して首位に立ち、憲法裁判所が選挙を無効とする判断をしました。
欧州においては、「保守対リベラル」の従来型対立から「既成政党対ポピュリズム」の対決へと、政治の構図が変化しています。反極右のファイアウォールを基盤とする大連立は、果たして本当に安定政権となるのでしょうか。ドイツが、欧州各国の右傾化に対する歯止めとなるかどうかも「ドイツの今後」の注目点です。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。





