ミュンヘン安全保障会議で演説するバンス米副大統領(写真:ロイター/アフロ)

バンス米副大統領がミュンヘン安全保障会議の演説で欧州の民主主義を痛烈に批判した。演説前日に現地で起きた襲撃事件に言及し、移民政策の失敗とSNSなどの過度な規制が民主主義を後退させていると主張した。暴論にも聞こえるが、ドイツで極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が躍進している状況を見れば、あながち荒唐無稽と切り捨てられない現実もある。なぜ、ドイツでは多くの若者がAfD支持に傾いているのか。そこには、難民などが起こす襲撃事件という現実の脅威に対して懸念を表明するだけで即座に「ナチス」呼ばわりされる社会への不満もある。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 ドイツでまたも惨劇が起きてしまった。2月13日、ドイツ南部・バイエルン州の州都ミュンヘンで、平和的なデモに参加していた人々に車が突っ込み、少なくとも39人が負傷した事件で、重篤な状態にあった2歳の女児と37歳の母親が16日までに死亡した。事件直後の映像には、道路に横たわる人たちに必死の救命処置が続く傍らに、壊れた傘やベビーカーが散乱している様子が確認されていた。

 車を運転し、現場で取り押さえられた男(24)はアフガニスタン出身で、2016年に難民申請をしたが、その後却下された。しかし、男にはドイツでの居住と労働が許可されていた。バイエルン州の内相は地元メディアの取材に対し、男にはこれまで犯罪歴がなく、国外退去の義務はなかったとしている。

 検察によると男は逮捕時「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫び、またその直後祈りを捧げたともいう。現状、イスラム過激派組織とのつながりは指摘されず、単独犯の可能性が高いとされている。

 これほどまでに右派ポピュリストにとって、都合の良い場所とタイミングがあるものかと思える襲撃である。総選挙まで間もない中、難民や移民排斥を掲げる極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が第2党に躍進する勢いを保ち続けている。その上、襲撃の翌日にはミュンヘンで各国要人が集まる安全保障会議が予定されていた。

 会議が開かれたホテルは襲撃現場から2キロも離れておらず、周辺は厳戒態勢だったはずだ。それにもかかわらず犯人は凶行に及んだ。そして、この悲劇を「好機」としてすかさず掴んだのが、バンス米副大統領である。