単に雇用を生むだけの「企業城下町」ではなく
ただし、「企業城下町」とひと口に言っても、企業の地域へのかかわり方には、ざっくり分けて3つのパターンがあると私は考えています。結論的に言えば、令和の新しい企業城下町は、その3つ目の進化系を追求すべきだと思うのですが、まずは、分類について申し上げたいと思います。
1つ目は、旧来的な典型的な企業城下町です。進化系から見ると地域との繋がりが比較的浅いパターンです。つまり、その地域に企業の本社や拠点があることで、雇用が生まれ、自治体にとっては税収が増えるというメリットがあるという分かりやすいパターンです。雇用を支えるということ以外には、地域のお祭りなどに協賛してくれたり、社員を少し出したりという程度のかかわりです。
地域にとっては、それだけでも大変有難いのですが、日本全体の経済の低迷の中で、こうしたパターンの場所は、総じて元気がありません。各地で工場の閉鎖が頻発していますが、雇用ということだけだと地域との関わりが比較的浅いため、大企業などはそろばんをはじいて割とドライに合理的に撤退を決めてしまいます。
これがもう一段深く関わってくると(パターン2)、企業が地域の社会資本整備に協力してくれるようになります。美術館をつくる、病院を整備する、地域でスポーツチームを作ったりそのチームのスポンサーになったりという関わり方です。たとえば徳島の大塚製薬(本社は東京、徳島市や創業の地・鳴門市に本部や複数の工場がある)は、地元に大塚国際美術館やホテルをつくっており、地域のスポーツチームのサポートも本格的で、地元自治体や住民にとってなくてはならない存在となっています。
そして、地域への関りがさらに深くなると(パターン3)、企業が街づくりや人づくりというソフト面でも、かなり主体的に関わってくるようになります。
例えば、「JINS」のブランドで知られるメガネの「ジンズ」の活動はこのパターンに当たると考えられます。同社は創業社長である田中仁・ジンズホールディングスCEOの出身地である群馬県前橋市に本社機能を一部移転する予定です。まずは、パターン1は今後本格的に体現しつつあります。
そして同社と田中氏はいま前橋の街づくりに深く関わっています。群馬県や前橋市の街づくり・人づくりのため「田中仁財団」を立ち上げ、さまざまな活動をしているのです。たとえば「白井屋」という老舗旅館を買い取りアートホテルにして観光のディスティネーション化を図ったり、起業家や地域活動化を育成するために「群馬イノベーションスクール」を開講したり、さらには地元の起業家たちを表彰する「群馬イノベーションアワード」の実行委員を務めたりと、ハード・ソフトの両面から街づくりにコミットしているのです。また田中氏は、前橋市の街づくりのグランドデザインを作る地元企業と個人からなる一般社団法人「太陽の会」を街の皆さんと設立し新たな活動をはじめています。
このパターン3のレベルくらいに企業や企業経営者が街づくりに積極的になってくれれば、民間の力で地域を活気づけ、その地域の稼ぐ力、食い扶持づくりに大きな貢献をしてくれます。ハードやソフトの整備もしてくれると、それは、ひいては、その企業にとっても人材確保や新規の事業分野開拓という面で大きなメリットが生じてくると思うのです。このパターン3のようなより深いかかわりこそが、令和の日本列島改造に求められる「新しい企業城下町」の根底を為す気がしています。