仕事柄、普段から若手官僚と接する機会は多いのですが、かつて元気があったのは、日本の稼ぎ頭であった電機産業や自動車産業を所管している経産省の官僚たちでした。それに対して当時の農水官僚は、農業は補助金漬けだし、国際交渉の場ではすぐに日本の農林・水産・畜産業等の保護を言い出すありさまで、「経産省は前向き、農水省は後ろ向き」という印象でした。

 ところが最近は、経産省が所管する業界が軒並み補助金漬けのような状態で(ラピダスやTSMC支援などが典型)、むしろ農水省が所管する農業、水産業、畜産業などは世界に通用するブランドを無数に抱える成長産業になっています。日本のイチゴ、日本の米などは、かつての家電や半導体よろしく、世界のトップレベルと言えます。その魅力をさらに磨いて、国内外に発信していくことが、地域の経済の牽引力になるのです。総理の先日の施政方針演説でも、そのための農地の大区画化や輸出促進が強調されていました。

地域外からお金を持ってこられる企業を中心とした「城下町」を作る

 以上説明してきたこの3つの柱がまず大事になってきます。そのうえで、これらを実現するために必要になるのは、3つのアクターです。まず、一番ミクロなレベルだと、主体となって地域をまとめ、牽引していく人材が必要です。私が常々いっている、自ら動き始めることができる「始動者」(リーダーの正しい翻訳)の存在です。

 次に、2つ目として、さらに、その地域外からお金を持ってこられる企業、つまり“外貨”を稼げる企業づくりが必要になってきます。企業城下町をイメージすると典型的に理解できますが、当該市町村に本社や工場等があり、域外からお金を引っ張ってこられる企業の存在です。地域の人々の生活において、福祉や教育、インフラ整備が重要であることは論をまちません。今までは、こうした原資の多くは、国から交付税や補助金の形で降ってくるのが常でした。しかし、低成長が常態化し、少子高齢化が加速する日本において、この形態を保ち続けるのはサステナブルではありません。各地が、経済的に自立するように尽力し、かつての「藩」のように、一種の独立国として振る舞えるようにすることが大事です。

 そして、最後3つ目に、こうしたリーダーや“外貨獲得企業”の動きを支え、さらにその予備軍を育成したり、横展開を図ったりしつつ、地域一丸となって経済活性や経済的・一部政治的独立化を目指すようなコミュニティが大事になります。これまでも商工会議所・青年会議所など、地域の動きを支えるコミュニティは存在しました。場所にもよりますが、こうした動きは形骸化してしまっていたり、機能しなくなってしまったりしているところが少なくありません。それらを再興したり、時に再編したりしながら新しいコミュニティを作っていくことが大事になります。

 これらが揃ってはじめて地域の食い扶持ができあがると思います。