三つの「不」

 企業経営では「不」の解消にビジネスチャンスがあるといわれるが、フード業界でも特有の「不」が生じている。

①不満

 一つ目は、不満である。

 フード業界は、新たな調理家電や冷凍食品の開発などに取り組み、不満の解消を図ってきた。それでも、個人が抱える不満は多種多様で、一律に対応できない。

 豊かになるほどニーズは際限なく多様化するため、食の分野では満たされないニーズが絶えず新たに生まれている。

②不足

 二つ目は、不足である。

 現在、日本において食料不足を感じることはほとんどないかもしれない。ただし、農林水産省「令和4年度食料需給表」によれば、日本の食物自給率は供給熱量ベースで38%、生産額ベースで58%にとどまる。需要を満たすには、海外に頼らざるを得ない状態だ。

 国際情勢にひとたび不測の事態が起きれば、途端に食料不足が顕在化するリスクがある。また、労働力の不足もある。高齢化が進み、生産年齢人口が減っていくなか、フード業界ではすでに担い手の減少が顕著になっている。

③不安

 最後は、不安である。

 これまでに行政や企業は、集団食中毒や産地偽装などの問題の解消に向けた取り組みを進めてきた。食のトレーサビリティの推進などが一例といえる。

 当公庫農林水産事業の「消費者動向調査」(2024年7月調査)で食の志向をみると、「安全志向」を挙げた人の割合は17.7%となった。業界における取り組みが進んだこともあり、確認できる最も古い2008年5月調査の41.3%からは低下してきているものの、安全性を重視する人は一定数いることがわかる。

 事例企業はそれぞれ独自の技術を駆使し、この三つの「む」と三つの「不」を解決している。

 当研究所では、技術分野を「IT・デジタル」「ロボティクス・メカトロニクス」「バイオ・ケミカル」の三つに分けて、調査を行った。どのような技術を用いて、どの課題の解決に貢献しているのか、各分野1社ずつ紹介したい。