『放屁論』でやけくそ気味に書いた平賀源内の「愚痴」
意次に頼まれて公文書偽造まで行ったかどうかはともかく、源内はいろいろと手を出し過ぎているがゆえに「怪しさ」がつきまとうのは確かだ。
今回の放送では、源内が重三郎に「ああそうだ。お前さん、これ読んだか。俺の新しいの」と『放屁論(ほうひろん)』を差し出して、ちょうど通りかかったへっぴり男の見世物小屋を紹介する場面があった。
源内は「福内鬼外」「風来山人」というペンネームで滑稽本・狂本を書き、江戸のベストセラー作家としての顔もあった。源内の著作の中でも異彩を放っているのが『放屁論』である。
「音に三等あり。ブツと鳴るもの上品にしてその形円く、ブウと鳴るもの中品にしてその形いびつなり、スーとすかすもの下品にて細長い」
こんなふうに屁を分析してから、美しいおならを芸とした、当時江戸に実在した屁の曲芸師について、次のように書きつづっている。
「わしは大勢の人間の知らざることを工夫し、エレキテルをはじめ、今まで日本にない多くの産物を発明した。これを見て人は私を山師と言った。つらつら思うに、骨を折って苦労して非難され、酒を買って好意を尽くして損をする」
『放屁論』の本編は安永3(1774)年、後編は安永6(1777)年に刊行されており、その間の安永5(1776)年に平賀源内はエレキテルを復元。大きな話題を呼んだ。

それでも「自分は正当に評価されていない」という鬱々とした思いがあったようだ。『放屁論』でやけくそ気味にこうも書いている。
「いっそエレキテルをへレキテルと名を変え、自らも放屁男の弟子になろう」
『べらぼう』では、源内の知られざる苦悩も描かれるのだろうか。次回は「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」。重三郎がのれん分けで本屋になる道を模索する。
【参考文献】
『放屁論後編』(平賀源内著、風々齋文庫)
『江戸の色町 遊女と吉原の歴史 江戸文化から見た吉原と遊女の生活』(安藤優一郎著、カンゼン)
『図説 吉原遊郭のすべて』(エディキューブ編集、双葉社)
『蔦屋重三郎』(鈴木俊幸著、平凡社新書)
『蔦屋重三郎 時代を変えた江戸の本屋』(鈴木俊幸監修、平凡社)
『探訪・蔦屋重三郎 天明文化をリードした出版人』(倉本初夫著、れんが書房新社)
『なにかと人間くさい徳川将軍』(真山知幸著、彩図社)
『ざんねんな偉人伝』(真山知幸著、学研プラス)
【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。