ディープシークの優位性は本物か?
ただ、ディープシークの技術力については、既にそれを疑問視する声が上がっている。その中で最も強力なのは、彼らがR1など自社のAIモデルを開発する際に、OpenAIの最上位モデルである「o1」を模倣したのではないかというものだ。
具体的に言うと、ディープシークが「蒸留(Distillation)」という手法を使った「相当な証拠がある」という指摘が、トランプ政権関係者から上げられている。
蒸留というのは耳慣れない言葉だと思うが、簡単に言ってしまうと、既存のモデルを「教師」として、それにさまざまな質問を投げかけて反応を引き出し、その結果を「生徒」すなわち新たに開発したいモデルに学ばせるという手法だ。その過程を酒造になぞらえて「蒸留」と呼んでいるのである。
蒸留は別に特殊な技術ではなく、AIモデルを新規開発する際の有力な手法として、広く活用されている。
ただし、この手法では、当然のことながら模倣するためのオリジナルのモデルが必要となる。そのモデルが自社内のものであれば問題はないが、他社のモデルを勝手に模倣した場合、オリジナルを開発した会社は良い気はしないだろう。OpenAIも規約の中で、無許可で自社モデルを蒸留することを明確に禁止している。
そんなルール違反をディープシークは行っているのではないか、というわけだ。この疑いは現時点では確定したものではなく、調査が継続されている段階だが、事実だとすればディープシークの革新性を割り引いて考える必要があるだろう。
とはいえ、仮に蒸留が行われていたとしても、ディープシークの技術力を根本から否定するものではない(もちろん勝手に蒸留を行ったことの違法性や倫理性を問わなくて良いという意味ではない)。というのも、蒸留という手法自体が、簡単に行えるものではないからだ。