カスハラやネット誹謗中傷の防止で先行

 地方議会では、国会よりも早く、ある社会課題が議論となり、法律より早く条例が制定されるケースが多々あります。最近では、カスタマーハラスメント防止条例がその一例かもしれません。

 最も早くカスハラ条例を制定したのは東京都で、2024年10月のこと。翌月には北海道議会で議員提案により同様の条例が成立しました。いずれも、2025年4月から施行されます。また、都道府県レベルでは、愛知県で同様の条例制定に向けた議論が始まっているほか、群馬県や栃木県も条例制定の動きが出ています。

 市町村レベルでも、三重県桑名市が悪質な場合は氏名を公表することを盛り込んだカスハラ防止条例を2024年12月に制定し、ことし4月から施行することになりました。

 地方公共団体が条例をつくってカスハラ問題に対応しようとしていることに比べると、政府・国会の動きは出遅れ気味と言えます。厚生労働省は現在、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)を改正し、企業に対してカスハラ防止対策を義務化する方向ですが、地方での一連の動きが国政に波及しているとの見方もできそうです。

表:フロントラインプレス作成
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 近年、地方議会で目立つ条例には、インターネット上の誹謗中傷を抑える目的のものがあります。

 この分野で最も早くに制定されたのは、2020年の「群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」です。

 群馬県の条例は前文で「インターネットの普及は、私たちの社会に大きな恩恵をもたらしている」「今や世界中のあらゆるイノベーションは、インターネットの存在抜きには考えられない」などとしたうえで、匿名発信などによる嫌がらせや罵詈雑言、プライバシー侵害などが横行していると指摘。県民をインターネットの負の側面から守るため、県には誹謗中傷を発生させないための施策や被害者支援を行う責務がある、と規定しました。

 同様の条例はその後、大阪府(2022年)や長野市(2023年)、さいたま市(2024年)などに拡大。最も新しい香川県坂出市の「インターネット上の誹謗中傷等の防止に関する条例」まで、20の地方公共団体で同じような条例が制定されています。

 一方、国レベルでは、悪質な侮辱行為に厳正に対処するためなどとして、2022年に刑法が一部改正され、侮辱罪の法定刑が「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられました。

 ただし、SNSを中心にネット上では依然として誹謗中傷が横行しています。これに対する抜本的な政策もまだ固まっていません。偽情報・誤情報対策として新法の制定を目指す動きもありますが、政府による情報コントロールの危険もはらんでおり、先行きは見通せていません。