「昇温2℃未満」の気候政策をとらないと、毎年4万人死亡数が増える
まず、気候変動の予測を見ていこう。気候モデルでは、気候政策により今世紀末までの昇温を2℃未満に抑える場合や、気候政策をとらずに昇温が進む場合など、4つの気候変動の経路について気象予測が行われている。これらの気候変動の経路ごとに、5つの気候モデルで日本全国の気候指数を計算して、その平均値をとった。
すると、高温、低温、乾燥の指数について、経路間の違いが鮮明となった。
特に、高温指数については、今世紀末の昇温を2℃未満に抑える場合の経路ではおおむね横ばいで推移する一方、気候政策をとらずに気温が4℃以上上昇する場合の経路では急激に上昇してしまうなど、違いが顕著となっている。
やはり、気候変動問題の中心には地球温暖化が進むことがあると言えるだろう。

続いて、得られた死亡数の予測結果を概観していく。はじめに、日本全体の死亡数の増加から見ていこう。
「気候政策を導入しない経路では、気候政策により今世紀末までの昇温を2℃未満に抑える経路に比べて、2081~2100年の死亡数が +2.0%増加する」との結果が得られた。
この+2.0%の増加は、2081~2100年の死亡数が80万人以上増加することに相当する。毎年4万人以上の人が、気候変動が原因で命を落とすことになる。
男女別に見ると、男性は+1.7%増加、女性は+2.2%増加と、女性のほうが大きく増加している。これは、温暖化が進むと1年のうちに過ごしやすい時期が短くなり、その影響が女性に出やすいためと考えられる。
このように、気候変動が激しくなると、死亡数の増加が膨らむ可能性があると言える。なお、この+2.0%という結果は5つのモデルの平均値だ。最大で+3.3%増加、最小で+0.9%増加というように予測には幅がある。今回の計算では、この予測の幅も気候変動によって広がる結果となった。
つまり、気候変動が激しくなると、死亡数予測の不確実性が高まる可能性があると言える。保険会社などが保険料を設定するためにリスクを見極める際は、予測の平均値だけではなく、予測の不確実性も重要なポイントとなる。気候変動は、予測の幅の拡大としてリスクの測定にも大きな影響を及ぼすといえるだろう。