AIデータによる因果関係の検証が容易ではない理由

 以上、気候変動と死亡率・死亡数の予測結果について何点か見てきた。ただし、得られた結果の解釈は、困難を伴うものが多い。

 例えば、年齢群団別に見ると、気候変動が進んだ場合85歳以上の年齢群団は死亡数が増加する半面、70歳代後半や80歳代前半では減少する形となったが、これについては、年齢群団に固有の要因(「年齢コホート要因」と呼ばれる)があることが考えられる。

 70歳代後半の年齢群団に話を絞ってみる。回帰式計算で、学習データ(機械学習でAIが学習する際に用いるデータに相当)として用いたデータは1930~1944年(昭和5~19年)生まれで、幼・少年時代を戦中期に過ごした層のものであった。戦時中の食糧難や感染症のまん延など、食糧事情や衛生環境に関する過酷な体験が、気候変動に関して他の年齢層と異なる死亡動向をもたらすとの仮説も立てられる。

 だが、具体的にどのようなメカニズムが存在しうるのかについては、慎重に検証を行う必要がある。年齢コホート要因の存在が明らかになった場合には、予測からはこれを外すことが適切と考えられる。

 このように、今回の予測結果には検証を要する部分が残されている。今後も引き続き因果関係の検証など、推論の精度向上に努める必要があるものと考えている。

【本稿で紹介した内容をまとめているレポート】
「気候変動:死亡率シナリオの作成─気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…」(篠原拓也:基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所/2024年12月24日)

【篠原拓也(しのはら・たくや】
ニッセイ基礎研究所主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト。1969年東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、1992年に日本生命入社。2014年から現職。保険事業の経営やリスク管理の研究、保険商品の収益性やリスク評価、社会保障制度の調査などを行う。公益社団法人日本アクチュアリー会正会員。著書に『できる人は統計思考で判断する』(三笠書房)がある。