気候変動は人間の健康や生命にも影響を与える(写真はイメージ)

(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)

世界の全死亡者数の74%に相当する死因「NCD」とは

 気候変動問題への対応策が世界中で進められているが、地球温暖化の影響は、ハリケーン、豪雨、海面水位上昇、山林火災、干ばつなど、さまざまな形で表れつつある。

「台風により線状降水帯が発生して大規模な水害が起こり、橋梁や建物などの構造物が被害を受けた」
「乾燥が続くなかで山林火災が発生し、延焼に伴う大気汚染が進むとともに貴重な生態系が失われた」

 といったニュースが頻繁に報じられている。

世界中で気温上昇による山火事が相次いでいる(写真:AP/アフロ)

 気候変動は人間の生命や健康にも影響を与える。台風や豪雨で発生する土砂災害による人身被害や、熱中症による体調不良や死亡は、気候変動との関連がわかりやすい。

 現在、日本で死因の大半を占めているのは生活習慣病だが、気候変動と生命や健康との関係を見るうえで、生活習慣病への影響を踏まえることも不可欠と言えるだろう。

 2022年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のWG2(第2作業部会)が公表した第6次評価報告書(以下、IPCC報告書*1)では、気候変動と生活習慣病などのNCD(非感染性疾患)の関係について、これまでのさまざまな研究の結果がまとめられている。それらの研究内容をもとに、気候変動が生命や健康に与える影響を見ていくこととしたい。

 まず、NCDについて、簡単に見ていこう。世界保健機関(WHO)の定義によると、NCDとは、生活習慣(喫煙、運動不足、過度の飲酒、不健康な食事等)や環境汚染などによって引き起こされる、心臓病、脳卒中などの循環器系疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患、メンタルヘルスといった慢性疾患を総称したものとされている。

 世界で毎年、全死亡者数の74%に相当する4100万人もの人々がNCDによって死亡している。

 死因別には、心血管疾患1790万人、がん930万人、慢性呼吸器疾患410万人、糖尿病200万人などとなっており、これら4つで8割以上を占めている*2*3。特に、高所得国ではNCDが死亡全体に占める割合が高いという。日本では全死亡者数の85%に相当する114.6万人もの人々がNCDによる死亡とされている*4

 NCDは、世界にとっても日本にとっても現代の人々の主要な死因と言えるのだ(【グラフ1】【グラフ2】参照)。


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 日本では、健康増進に関する取り組みとして、1978年から国民健康づくり対策が数次にわたって展開されてきた。2000年からは、その第3次の対策として「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が推進された。現在は、第4次対策が進められている*5

 そのなかでも生活習慣病(NCD)の予防が掲げられており、具体的な目標を設定したうえで、取り組みを進めることとされている。例えば、身体活動・運動に関して、「日常生活における歩数の増加」という項目では、2019年度の1日の歩数6278歩(年齢調整していない現状値)を、2032年度に7100歩に増やす目標が設定されている。