(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)
地球温暖化には「臨界点」がある
気候変動問題を巡る動きが世界中で活発になっている。台風や豪雨などの極端な気象現象による災害の激甚化・頻発化をはじめ、南極やグリーンランドの氷床の融解による海面水位の上昇、干ばつの発生など、地球温暖化によるさまざまな影響が出始めている。
先ごろエジプトのシャルムエルシェイクで開催されたCOP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)では、世界平均気温を産業革命前(1850~1900年平均)に比べて、1.5℃に抑えるという目標に向けて、温暖化ガスの削減目標の強化と実施を進めることが確認された。
この1.5℃目標。わずか1.5℃という気もするが、そもそもなぜ世界中で1.5℃の上昇に抑えることにこだわるのか? 1.5℃を超えたら一体どうなるのか? 素朴な疑問を持つ人もいるだろう。今回はそんな疑問について考えてみたい。
気象や気候は自然科学の現象だ。物理や化学の現象では、よく“臨界点”が問題になる。臨界点を超えると、元の状態には戻れなくなる。いわゆる不可逆性を持つ状態となる。
たとえば、沸騰したお湯に卵を入れて、ゆで卵を作ったとしよう。一度、ゆで卵になってしまった卵は温度が下がっても固まったままだ。温度の臨界点を超えたために、黄身や白身のたんぱく質が変性して元に戻らなくなったわけだ。
気候変動問題も科学的にみれば物理や化学の現象だから、臨界点が問題になる。温暖化や平均気温上昇にも臨界点がある。その臨界点を超えると、地球の気候システムが崩壊を始め、地球が暴走を始めてしまう状態になる。