(国際ジャーナリスト・木村正人)
[シャルム・エル・シェイク(エジプト)発]「♪ロス&ダメージ・イズ・カミング・ホーム(損失と損害が戻ってきた)」――。
毎年の恒例のように延長戦に入った国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で世界最大の気候変動NGO、CAN(気候行動ネットワーク)インターナショナルのメンバーが19日、記者会見の壇上でコーラスを始めた。
30年越しの「損失と損害」が実現
「損失と損害」をご存知だろうか。英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)によると、「緩和(温室効果ガス排出の回避と削減)」や「適応(現在および将来の気候変動の影響への適応)」によっても回避できない、気候変動による“破壊的な影響”を指す。そして「損失と損害」は、温室効果ガスを排出しながら経済発展を遂げてきた先進国よりも、途上国のほうにはるかに大きくのしかかってきた。今回のCOP27では、その途上国が被ってきた「損失と損害」への支援が初めて正式な議題になったばかりか、一気に「損失と損害」基金設立に関してまで合意に達した。
予想外の進展だった。それまでウクライナ戦争によるエネルギー危機で化石燃料産業ロビイストの活動が目立ったCOP27だったが、閉幕ぎりぎりの段階で「損失と損害のCOP」として歴史にその名を刻む会議となった。
具体的な内容は来年のCOP28で詰められることになるが、今回の基金設立の合意は、気候変動に関してその大きな原因を作ってきた先進国から、その被害を被ってきた途上国に対する経済的支援のスタートとなる。歴史の大きな転換点と言ってもいい。
世界で最も気候変動に脆弱な20カ国(V20)経済は気候変動の影響により、過去20年間で推定5250億ドル(約73兆7000億円)を失ったとされる。「損失と損害」のコストは50年までに1兆ドル(約140兆円)以上に達すると予測されている。
だが、先進国が「損失と損害」に対する責任を受け入れると途上国による補償請求や国内訴訟が続出することを極度に恐れたため、気候変動対策の新たな国際枠組み「パリ協定」(15年)からも除外された。それがCOP27の正式な議題になったのは今年、異常気象による破壊的な自然災害が世界中で相次いだことが背景にある。