気候変動被害を支援する基金の設立で合意したCOP27(2022年11月20日、写真:AP/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 エジプトで開かれていた国連のCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)が、11月20日に閉幕した。昨年(2021年)グラスゴーで開かれたCOP26では石炭の廃止をめぐって大論争が行われたが、今年はほとんど話題にならなかった。だが蓋を開けると、意外な進展を見せた。

 発展途上国が、地球温暖化の被害を先進国が賠償する基金の創設を要求し、最終合意にそれが明記されたのだ。他方でEU(欧州連合)がずっと主張してきた、地球の平均気温を産業革命前から1.5℃上昇に抑えるという目標は、削除されてしまった。

EUの「環境貴族」に対する途上国の反乱

 これまでのCOPは、EUを中心とする先進国が「気候危機」を訴え、温室効果ガスの排出を止めるために化石燃料(特に石炭)の消費を削減するための会議だった。EUにとっては、グラスゴーで合意した1.5℃の「努力目標」を一歩進めることが最大の目的だった。

 しかしウクライナ戦争でエネルギー危機が起こっているとき、化石燃料の廃止で合意することは不可能だった。今すでに平均気温は産業革命前から1.1℃上昇しており、あと0.4℃の気温上昇を半永久的に止めるには、2050年までに、電力だけでなく自動車や鉄鋼なども含めて、温室効果ガスの排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にしなければならない。

 そのコストは、IEA(国際エネルギー機関)の推定では全世界で年間約4兆ドル。世界のGDP(国内総生産)の5%である。

 これは先進国でも無理だが、まだ飢餓の解決できない発展途上国にとっては、100年後の地球の気温より、今日の食糧のほうが重要である。インドではまだ2億人が電力なしで薪で暮らしており、ネットゼロなどという「環境貴族」の贅沢につきあう余裕はない。

 それに対して途上国が打ち出したのが、損失と賠償(loss and damage)の要求だった。これは「途上国の洪水や干魃は地球温暖化が原因だ」と主張する先進国に対して、その損害賠償を求めるもので、COP26でも中国やインドが要求したが、無視された。

 ところが今回は議長国エジプトを中心として、途上国や産油国が一致して賠償を求めた。特にUAE(アラブ首長国連合)は1000人以上の大規模な代表団を派遣し、「途上国には化石燃料が必要だ」と197カ国の代表を個別に説得した。