がんは「発がん性物質にさらされる」ことでリスクが増大する
IPCC報告書は、気候変動によりいくつかの悪性腫瘍のリスクを増加する可能性が高いが、リスクがどの程度増加するかは不明としている。関連の多くの文献は、気候変動が発症につながるまでの経路を精緻に解明したり推定したりすることに焦点を当てている。しかし、予測される影響に関する文献は限られている。
気候変動により、発がん性のある多環芳香族炭化水素(PAHs*15)、臭化物、ポリ塩化ビフェニル(PCB)を含む残留性有機汚染物質(POPs*16)、放射性物質などが増加することが懸念されている。これらの発がん物質にさらされることは、複数の環境要素を通じて発生し、気候変動によって増加する可能性があるという。
また、降水量の変化に関連して、紫外線を浴びることが変容し、屋外作業者の悪性黒色腫の発生率を増加させる可能性があることが懸念されている*17。
ほかの経路として、肝内胆管がんの原因となる肝吸虫(肝臓内の胆管に寄生する吸虫の一種)の移動と肝吸虫への曝露(病原体等にさらされて感染や発症のリスクが高まること)の増加*18や、気候関連移動による発がんリスクを増加させる住血吸虫症*19などの感染症による罹患*20が含まれる。
複数の経路を介した発がん性毒素への曝露の増加も懸念される。例えば、穀類、落花生、ナッツ類、とうもろこし、乾燥果実などに寄生するコウジカビの一種が産生するアフラトキシンへの曝露は、インド、北米など、世界各国で増加するものと予想されている*21*22。
その他、気候変動に伴って、シアノバクテリア(藍藻)のブルーム(大量発生)に由来する発がん性毒素について、その発生頻度が増したり、繁茂分布が拡大したりすることが予想されるという*23。
呼吸器疾患はさまざまな大気汚染物質の影響を受ける
IPCC報告書では、非感染性の呼吸器疾患には、曝露の経路が複数あり、気候の影響を受けやすいものがあるとされている(確信度は非常に高い)。
まず、大気汚染に伴うブラックカーボン*24は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を引き起こす。また、オゾンや微小物質も呼吸器疾患に関係しているという*25。
一方、汚染物質をアレルゲンとして、アレルギー性鼻炎やアレルギー性喘息などのアレルギー性疾患が、気候変動に応じて変化している可能性があるとされる*26。
さらに、北米での調査で、気候変動に起因する花粉シーズンの長期化と、喘息による入院患者の関連性を示す研究もある*27。