ストレスを溜めないよう、努めて普段通りに振る舞おうとする兵士

 筆者はこの基地を訪れる時、ハルキウの町で少し食料を買い込んでいくことにしていた。お世話になるのでせめてものお礼だ。チーズ、菓子類、そして丸鶏などを買う。

 基地から近くの町は小さな商店しかないため、商品のバリエーションが少ない。お土産を持っていくと、いつもと違うものが食べられる、と兵士たちは喜んでくれる。

 基地では、兵士たちは極力ストレスを溜めないよう、通常通り振る舞い、暮らしているようにしているように見えた。

 だが兵士は命を危険にさらし戦っている。多くのストレスを抱えている。そのため、気持ちがささくれ立っていたり、ふさぎ込んでいたりする人も多い。

 誰かの何気ない一言で気分を害してしまったり、話の途中で何かを思い出したのか急にふさぎ込んでしまったりする人もいる。

 軍人特有の粗っぽい言葉遣いでけんかになると大変だ。筆者も話をするときは、言葉を選びながら接するように心がけていた。

 だが、いくら普段通りに過ごそうともここは前線近くだ。外では常に攻撃音が聞こえる。ご飯を食べながら、近隣でどんな被害が出たかの情報交換をしあう。

 ある朝はリビングに行くと「昨日はドヴェスティ(200)が2人だ」と話していた。200とは「死亡」を意味する。「チティリ(4)」は負傷だ。

 そんな環境にいると、筆者の心も疲れてくる。

 前線にいる、ということ以外で筆者のストレスになったのは、兵士のタバコと食生活だった。人の入れ替わりがあるが、リビングには大概2~3人の兵士がいた。そのうち、だれかはタバコを吸っている。筆者は非喫煙者である。閉め切った屋内でタバコを吸われるとかなりきつかった。

 また、若い男性が多い兵士の集まりである基地での食生活も、あまり好みではなかった。

 兵士たちはエナジードリンク、コーラを好んでよく飲み、サラミ、目玉焼き、などがよくある食事だった。筆者は野菜が恋しくて仕方なかった。

兵士が基地で育てている(?)玉ねぎ(写真:筆者撮影)
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 ある日の夜、外へ出ると、珍しく晴れていて満点の星が見えた。曇りがちな冬には珍しいことだ。前線地域は人々が避難してしまい街の明かりが少ない。このため星がとてもきれいに見える。

 寒いがしばし地面に腰を下ろして星を眺める。久しぶりに心から良い空気を吸える気がした。

 すると近くで派手な迎撃音がした。「中に入ったほうがいいな」と腰を上げた。リラックスタイムは短い。