鱗形屋孫兵衛、江戸出版界から消える

 一方、鱗形屋孫兵衛は信用回復を狙ってか、恋川春町の作品を次々と世に送り出した。

 安永6年(1777)からは、恋川春町の友人・尾美としのりが演じる朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ/本名・平沢常富)の黄表紙を出版する。朋誠堂喜三二もまた、黄表紙界を牽引する人気作家となった。

 鱗形屋孫兵衛は大いに収益を上げたと思われるが、経営を立て直すまでには至らなかったようである。やがて、鱗形屋孫兵衛は、江戸の出版界から姿を消した。

 なお、鱗形屋孫兵衛の次男は、西村まさ彦が演じる西村屋与八(にしむらやよはち)の養子に入り、二代目西村屋与八となったとされる。

 恋川春町と朋誠堂喜三二は、鱗形屋孫兵衛の専属的な作家という存在であった。

 しかし、鱗形屋孫兵衛の経営が傾き、黄表紙が出版できなくなると、彼ら手を組んだのは蔦屋重三郎だった(恋川春町は安永8年(1779)から、休筆状態。天明2年(1782)に、蔦屋重三郎と組み、黄表紙の制作を再開)。

 人気作家二人を擁した蔦屋重三郎は、鱗形屋孫兵衛と入れ替わるように出版界を駆け上がっていく。