衝撃のラストライブ

Die In Cries LAST LIVE「1995.7.2」』( DVD)ジャケット写真より

 そんな個性的な4人が最後のぶつかり合いとして残された作品が『LAST LIVE「1995.7.2」』である。タイトル通り先述の東京ベイNKホールでのラストライブを収録したものだ。音源と映像作品がリリースされているが、音源はCD2枚組で全曲が収録されている。4人の演奏者としてのスキルの高さ、バンドアンサンブルの高度なせめぎ合いを存分に堪能できる作品だ。

 DIE IN CRIESは音源を聴いているだけでは、ライブでどう演奏するのかまったく想像のできないバンドであるが、ライブ音源を聴いても映像を見てもどうやって演奏しているのかよくわからない。YUKIHIROの千手観音のようなドラム捌き、TAKASHIの5弦をフル活用したあり得ないフレージング、室姫の鮮やかで奇抜なサウンドながらも絶対に歌を邪魔することなくも耳に残るフレージング。そしてありったけの声量で咆哮するKYO、という紛れもなく、レジェンドバンドの姿がここにある。

 私の著書『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(2022年 星海社新書)で詳しく触れているのだが、この『LAST LIVE「1995.7.2」』映像には衝撃的なラストシーンが収められている。

 最後の楽曲、2度目の「NERVOUS」を演奏し終わると、室姫が愛器でありトレードマークであった“♂♀”ペイントの自身のシグネチャーギター、フェルナンデスのMT-DCを客席に放り投げてしまうのである。

 90年代シーンを象徴するペイントされたシグネチャーモデルを手放す行為は、彼にとっての“脱ヴィジュアル系宣言”であると同時に、洋楽オルタナティヴロックへの傾向の情勢を表したもの、ヴィジュアル系黎明期の耽美な黒服系からミクスチャーロックへ移り変わっていくシーンを象徴する場面でもあった。実際、DIE IN CRIES解散後、室姫は“児島実”と名を改め、オーセンティックなギターを手にしてBLOODY IMITATION SOCIETYを本格始動させた。

ヴィジュアル系のレジェンドとしての功績

 音楽性としてのDIE IN CRIESに触れてきたが、ヴィジュアル系アイコンとしての彼らの存在も大きい。ミュージックビデオを中心に映像作品を多くリリースしたバンドである。蝋燭に囲まれた中で淡々と演奏する「MELODIES」、スチームパンクの世界観を体現した「Nocturne」、さらには「Funeral Procession」の海辺や「to you」の樹海といったアポカリプスの退廃美を演出するなど、いわゆる“ヴィジュアル系バンドのミュージックビデオ”のパブリックイメージを作ったバンドといっていい。

 逆毛や横に流すヘアスタイルが主流の中で、KYOのサラサラヘアや、YUKIHIROの襟足の短い短髪も珍しかったし、室姫の軍服姿もヴィジュアル系ファッションに大きな影響を与えた。加えて、そうしたビジュアルや世界観を徹底的に作り込んでいたにもかかわらず、ノーメイク&私服姿も多く見せていたバンドであった。ライブでのオフショットやレコーディング、はたまた取材風景など、飾らない姿をためらうことなく見せていた。

 1995年7月、その人気も実力も絶頂の中で解散したレジェンドバンド、DIE IN CRIESであるが、2001年秋、ソロ活動をしていたkyoと室姫が再び交わることになるのだが、それはまた別の機会にでも。