大きく変わることはないアメリカの大戦略
こうしたフォンテーヌ氏の主張は、非常に説得力に富むといえるのではないだろうか。
確かに、トランプ政権は同盟国に対して「防衛費をGDP比で5%にしろ」といった要求はするかもしれない。だが、高い要求をしたからといって、NATO(北大西洋条約機構)から脱退したり、日本や韓国との同盟を破棄したりするようなことは考えにくいだろう。
アメリカの同盟網は、アメリカ自身にとって利益があるからこそ、戦後長きにわたって存続してきたのである。「力による平和」を目指すならば、同盟国のネットワークはより重要になるはずだ。
バイデン政権とは細かい部分ではもちろん違いはあるが、アメリカのグランドストラテジー(大戦略)はそれほど変わらないのである。
中国を競争相手とみなす戦略観は、バイデン政権も同様であった。中国を競争相手とするなら、日本との同盟は最も重要であるし、北朝鮮を封じ込めるためには韓国との同盟はもちろん重要である。
フォンテーヌ氏が論じるように、中国を主要な競争相手とみなすからこそ、クアッド(オーストラリア・インド・日本・アメリカ)やオーカス(オーストラリア・イギリス・アメリカ)は重要な枠組みであり続けるだろう。これらの多国間枠組みはすでに超党派的な合意のもとに成り立っている。
国際環境を決定付ける要因の多くは、バイデン政権から引き継がれる。合理的な外交政策を策定するのであれば、両政権の政策が似通ってくるのは当然のことである。
何より、トランプ大統領はノーベル平和賞を本気で狙っているといわれている。ロシアとウクライナの戦争を停戦させることを目指し、東アジアでは北朝鮮との交渉によって核兵器開発を遅らせることを試みるだろう。