「できればすべての行政サービスを手放したい」

──官僚は、権限・権力を失うことを恐れるのだと思っていました。

仲川:できれば全部手放したいです(笑)。これって、日本全体で考えるべきことだと思います。

 実は、奈良市には約2500人の正規職員がいますが、それを800人にしようと思っています。

──えっ?

仲川:消防関係の職員が約400人いますので、そういった市民の安全を守るために必要人員は維持しつつも、残りの2100人については適正に減らしていく必要があると考えています。

 今年の二十歳は約3500人、新たに生まれた子どもは1900人です。つまり20年後の二十歳はおよそ半分になるわけです。それではその20年後はどうなるのか。今の社会情勢を考えれば、さらに半分になっているでしょう。今の4分の1です。40年後は今の4分の1の人員で回さなければならないんですよ。

 その時に、役所が人材をかき集めて優先的に雇えば、他の産業が回りません。4分の1の将来に向けて、公共セクターが率先して労働力を手放していく必要がある。そう考えて、今から30年かけて職員を減らしていくことにしました。

東大寺から見た奈良市の街並み。奈良市では、今後30年かけて職員の数を4分の1にするという(写真:Spuyan/イメージマート)

東大寺から見た奈良市の街並み。奈良市では、今後30年かけて職員の数を4分の1にするという(写真:Spuyan/イメージマート)

──今の行政サービスを維持することは不可能ですね。

仲川:そこも、ものの考え方一つですよね。例えばですが、これまで行政の直営だった幼稚園や保育園を民間に委託するのは一つの方向です。もちろん、ゴミの収集もそう。道路の維持管理も、すでにそうなっている部分もありますが、穴ぼこや倒木の通報受け付けから修繕まで、民間にパッケージで委託することも可能でしょう。それに、マイナポータルを使えば、転入・転出、お金の収集も問題なくできる。近い将来、行政の仕事は、プランニングや進捗管理くらいになるかもしれません、

──そうなると、確かに今ほどの人員は必要ありませんね。

仲川:「そんなことはできないよ」といって放っていると、すぐに3年、4年と時間が経っていきます。職員数の件は、「今すぐ実施する」という話ではありません。でも、30年後であれば、今から採用人数を調整すればできるのではないでしょうか。

 30分の1を刻むことで、ゴールに向かって一歩ずつ進む。もちろん、今いる人を切るという話ではありません。

──そうした考え方は、市役所の職員はどれだけ共有しているのでしょうか。

仲川:幹部など近いところはある程度共有できていると思います。ただ、市長が言ったからどうという話ではなく、誰が考えても一緒だと思います。答えは見えている。

 いずれにせよ、今回のプロジェクトを単なる社会実験で終わらせるわけにはいきません。月ヶ瀬のLocal Coopから、持続可能な地域社会を作り上げていきたいと思います。(Local Coop 尾鷲編に続く)

■訂正履歴(2025/01/31/17:50)
「滞納債権は弁護士に回収を委託しています」とあったのは誤りでしたので、当該部分を削除しました。お詫びして訂正いたします。

仲川げん(なかがわ・げん)
立命館大学経済学部卒業。 帝国石油株式会社(現・株式会社INPEX)及び奈良NPOセンターでの勤務を経て2009(平成21)年7月、当時全国で2番目に若い33歳で奈良市長に初当選。2021(令和3)年7月に奈良市長4期目に就任。

篠原 匡(しのはら・ただし)
編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表取締役
1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。
著書に、『人生は選べる ハッシャダイソーシャルの1500日』(朝日新聞出版)、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)
など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。