「中国は最強で危険な敵」と煽る反中ルビオ

 トランプ氏が対ロ外交の次に着手するのは、対中外交だ。少なくともワシントンの外交専門家たちはその点では一致している

 国務長官になるマルコ・ルビオ氏は、1月15日の上院外交委員会の指名承認公聴会でこう発言した。

「米国が直面している中で最も強力で危険な敵は中国だ。中国共産党は抑圧、ウソ、不正を駆使して超大国の地位を手に入れた」

「(台湾を)侵略した時の代償が大きすぎると信じさせることで、中国のインド太平洋における軍事介入を防ぐことが重要である」

 対中強硬派のルビオ氏が中国を「最も強力で危険な敵」と呼んだ背景は、中国が台湾を「核心的に重要な自国の領土」と位置づけ、軍事介入のチャンスを虎視眈々と狙っているからだけではない。

トランプの知恵袋は「影のホワイトハウス」

「影のトランプ・ホワイトハウス」と言われ、過去4年間、内政外交のアジェンダを調査・研究してきたシンクタンク「America First Policy Institute」(AFPI)*1がまとめたトランプ政権の8項目(雇用拡大、官僚数削減、不法移民追放、ウクライナ戦争の終結など)の重要アジェンダに「中国依存からの脱却」という項目として対中政策が取り上げられている。

*1=2021年、設立されたトランプ氏を補佐する学識経験者集団。理事長はリンダ・マクマホン氏(次期教育長官)、CEO(最高経営責任者)はブルック・ローリング元国内政策審議会委員長代行。トランプ第1期政権の閣僚8人が参加。スタッフは170人、第2期政権の事実上の政権移行チームになっている。トランプ政権のブレーン集団と自負する保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」とはライバル関係にある。

 AFPIのリー・ゼルジン中国部長は、「中国依存」の具体的な事例として、次のようなものを挙げている。

「中国からの半導体、薬品、国防関連装置の輸入、サプライチェーン、メキシコ経由で米国に密輸されている合成麻薬『フェンタニル』の原料」

 トランプ氏は、中国を敵対国(バイデン氏は「競合国」と言い続けた)と公言する一方、中国、ロシアの指導者を「素晴らしい奴(Guy)」と呼んできた。

 トランプ氏は対中強硬発言をする一方で、2024年12月13日の記者会見では習近平国家主席についてこう述べている。

「習近平氏とは、手紙を通じて非常に良い対話をしてきた。米中両国は世界のあらゆる問題をともに解決できる」

 1月19日のNBCテレビのインタビューでは、こうも述べていた。

「習近平氏とは良好な関係にある。新型コロナが発生して以後は、関係は途切れたが・・・。X(旧ツイッター)でやり取りはしていた」

 あくまでも「Diplomatic Theater」(外交劇場、つまり外交上のジェスチャーという意味)だったが、トランプ氏は大統領就任式に招待している。

 習近平氏は、自分の名代に韓正国家副主席を就任式に派遣すると発表した。これを受けてトランプ氏は1月17日、習近平氏と電話会談を行った。中国国営の新華社が速報、トランプ氏がSNSで確認した。

Trump invites China's Xi to inauguration, experts call it political theater)

 トランプ氏の対中戦略は、「関税」と「軍事力=第7艦隊」という「梃」(Leverage)と、さらに言えば本気と誇張をないまぜにした「脅し」を発信するトランプ・パワーだ。

 大統領選中にはトランプ氏は中国からの全輸入品に60%の関税を課すとまで断言していた。

 中国が米国の要求に応じないのであれば、全輸入品に課している関税を引き上げるという脅しを実現させるために、外国製品を専門に扱う「外国歳入庁」を新設するとまで言い出している。

 主要シンクタンク「GMF」(German Mashall Fund)の著名な中国専門家、ボニー・グレーザー氏は、米中のせめぎ合いをこう見ている。 

「トランプ氏の真の狙いがデカップリング(分断)であれば、中国は輸出規制など強硬手段に出るのは必至だ。だがトランプ氏はあくまでも取引を望んでいるはずだ」

「中国は中国でトランプ氏に影響力を持つ信頼すべきバック・チャンネルがなく、イラついている」

China's Xi Jinping says he is ready to work with Trump in last meeting with Joe Biden