ゲイの作者がヘテロの葛藤をリアルに描く

 物語の見どころを二つ挙げるとすれば、まず一つ目に、自分をゲイだと認識した近所に住む中学生・一哉が、悩みをマイクに相談するシーンを挙げたい。3ページほどマイクと一哉の会話がサイレントで表現されるページが続き、さらに2ページを割いた後で、ようやく一哉がゲイであることがセリフで明かされる。無言劇の中、理解者が欲しくて縋るような少年の表情が強く心に残る。その後一哉は堰を切ったように思いの丈を語り始めるのだが、思春期の少年にとってカミングアウトすることが、どれほどの重さであるかを描破している名シーンである。

 もう一つの見どころは、偏見を持った夏菜の担任教師の偏狭な発言に、弥一が言い返す場面だろう。心の中で「さらっと差別かましてんじゃねえよ!」と怒りながらも、冷静に理路整然と論破するのだ。そしてこの瞬間、弥一のなかで弟のセクシャリティは完全に承認され、故人となってしまった弟との隙間が埋められるのである。

 弥一はマイクとの出会いのなかで、自分の中にゲイに対する固定観念と差別意識があることに気づき、そのひとつひとつを悶々と考える。これはゲイである作者がヘテロセクシャル(異性愛)の葛藤をリアルに描くという難業に向き合ったということである。本当にすごい想像力だ。