陸・空・海・宇宙・サイバー空間の何が狙われる
同氏は陸・空・海・宇宙・サイバー空間で何が狙われるかを分析している。
(1)陸
軍事基地や兵站拠点を標的にすれば、サプライチェーンを混乱させ、NATOの作戦能力を弱め、部隊の即応性を低下させることができる。回復力を削ぎ、軍事作戦を遅延させるとともに、長期的にはNATO加盟国のリスク許容度をさらに低下させられる。
(2)空
リアルタイムで空中の脅威を探知・追跡し、早期警戒と迅速な対応を可能にするレーダーが狙われる。レーダーが破壊され、制空権を失えば、他領域におけるロシアの攻撃に対するNATOの対応も変わらざるを得ない。小型ドローン(無人航空機)使用は想定内だ。
(3)海
最大の効果をもたらす標的は海底にある。水深の浅いバルト海ではケーブルやパイプラインは比較的容易に破壊できる。世界のデータの95%が海底ケーブルを経由していると推定される。専門的な道具を備えたダイバーがカリーニングラードから出撃する可能性が高い。
(4)宇宙
作戦は通信や観測用衛星がある静止軌道上で行われる。データを保存・送信する能力を持つ衛星を破壊すれば通信や情報収集の能力が失われるため、格好のターゲットになる。スペースデブリ(宇宙ゴミ)を大量発生させる対衛星ミサイルや放射線兵器が使われる可能性がある。
(5)サイバー空間
「ロシアではハッカー犯罪と国家のサイバーアクターの境界線は曖昧だ。医療への大規模サイバー攻撃が行われるとしたら、ほぼ間違いなく犯罪者のプロキシによって行われる」とモーリー=デイビーズ氏は指摘する。
台湾最大の電気通信事業者、中華電信と海巡署(沿岸警備隊)は1月4日、カメルーン船籍で事実上中国人が所有する貨物船が3日朝、台湾北岸の基隆港近くで台湾と米西海岸を結ぶ海底インターネットケーブルに損傷を与えたとみられると発表した。
英紙フィナンシャル・タイムズ(1月5日付)によると、貨物船はケーブルが破断した場所で錨を引きずっていたとされる。
バルト海でも23年10月、ガスパイプラインとケーブルが損傷、24年11月、光ファイバーケーブルが切断され、中国船が監視対象となった。ロシアとの連携を深める中国が武力衝突に発展しない程度にグレーゾーン作戦を展開し、台湾や米国の反応を試そうとしている可能性もある。
日本にとってももはや他人事では済まされない事態だ。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。