3.国民民主党が優先交渉権を得た理由(その1)交渉力を示す「シャプレイ値」

 なぜ自民党の石破総裁は連立交渉をしかけなかったのか。結論を急げば、出来なかった、というのが答えになるだろう。

 今回の総選挙では、自公与党が過半数に届かなかっただけでなく、小政党が躍進した。左派ではれいわ新選組が9議席を獲得し共産党の8議席を上回り、右派では日本保守党と参政党がそれぞれ3議席を獲得した。労働組合や宗教団体、地域団体、農業団体といった既存政党の支持基盤が弱体化し、多党化が一層進んだと評価してよいだろう。

 しかし、そうした一桁の議席しかない小政党は、自民党による多数派工作の対象としては力不足だった。ハングパーラメントにおけるキャスティングボート政党の発言力を数値化した指標に「シャプレイ値」がある。

 2012年にノーベル経済学賞を受賞したシャプレイ博士によるもので、10政党の中でランダムに政党をひとつずつ順番に政党連合に加えていく作業をすると、過半数連合を形成するやり方は全部で10!=362万8800通りあるが、どの政党がどれだけキャスティングボートを投ずることができたかを計算するのがシャプレイ値(シャプレイ・シュービック指数)だ。

 このシャプレイ値を見ることで、実際の獲得議席数とは異なったハングパーラメント下の政党の交渉力が浮かび上がる。一橋大学経済学研究科の竹内幹准教授によると、立憲民主党は148議席あるがシャプレイ値は低く73名相当。

 そうした中で、議席数より交渉力が大きく膨らむのが、日本維新の会38議席の62名相当と国民民主党28議席の38名相当となる。野党第1党は不利、野党第2党、第3党は有利というのが可視化される。躍進はしたものの第4党以下の小政党には依然として荷が重かった。

◎竹内幹「支持政党・投票先・余命ウェイト投票・投票力指数」(Yahoo!ニュース)

 そして、一番有利なはずの野党第2党・日本維新の会は、前回から294万票(36.6%)減の510万票にとどまり、国民民主に比例票で野党第2党の地位を奪われた。

日本維新の会の臨時党大会であいさつする吉村洋文大阪府知事(写真:共同通信社)日本維新の会の臨時党大会であいさつする吉村洋文大阪府知事(写真:共同通信社)

 こうした維新の比例票の減少率は自民党の26.8%減よりも大きく、選挙後の臨時党大会で馬場伸幸代表の事実上の不信任が可決され代表選挙に突入、一番大事な11月を棒に振ることとなる。そこで、いわゆるキャスティングボートを握ったのが、前回の259万票から617万票へ約2.4倍に比例得票を伸ばした国民民主党だったのである。

 自民党の石破総裁には日本維新の会あるいは国民民主党と連立を組む選択肢もあったはずだが、2025年7月の参院選はじめ当面の政治日程を視野に、いずれの政党も与党自民党と距離を置くこととなる。自民党と連立を組んだ結果、一緒に沈んでは元も子もないからである。

 投開票日の会見で維新の馬場代表(当時)は与党入りについて「全く考えていない」「政治とカネの問題がクリアにならない以上、自公を信用するわけにはいかない」と改めて否定。国民民主党の玉木雄一郎代表も、連立政権への参加は「ない」と明言、「閣僚のポストよりも政策実現が大切だ」と説明した。