4.国民民主党が優先交渉権を得た理由(その2)利得を最大化する「ライカーモデル」

 では、宙づり国会における与党との政策実現に向けた「優先交渉権」を国民民主党が得た理由は、日本維新の会が代表選挙に時間を取られたからだけであろうか。そうであれば、昨年12月1日に新代表に選出された吉村洋文代表に交渉力が生まれてもおかしくないはずだが、そうはなっていない。

 年末の与党予算編成大綱に「教育無償化」の文字が修飾語として入っただけで補正予算案に賛成するなど拙い対応も手伝って、維新にバーゲニングパワーが生まれているようには全く見えないのだ。

 実は、少数与党との交渉力を考えるときに参考になるのが、ゲーム理論の古典、ウィリアム・ライカーによるライカーモデルだ。政党は自党の利得=分け前をできる限り最大化しようと行動する。

 一方で政党は、政権につくために自らの利得を相手に分け与える。そこでは利得を分け与える相手が少なければ少ないほど良いこととなり、交渉を妥結する政党の数は少なければ少ないほど良いとなる(これを「最小勝利連合」という)。

 先の総選挙では、選挙後の公認追加も含めて自公与党が196+24=220議席となり過半数233まで13足りない状態にある。先に述べたれいわ新選組の9議席では足りないが、日本維新の会38なら十分だし、国民民主党・無所属クラブ28でも十分に足りる。

 ライカーモデルでは、議席数の多い政党と連合すると分け前が少なくなるので、足りない13議席を埋める(予算案を可決する)ことのでき、かつ、議席数が最小の国民民主党と連合を組むことが自民党の分け前を最大化することになる。

 このライカーの最小勝利連合の理論を継承し発展させたのが、ロバート・アクセルロッドである。

 アクセルロッドは、分け前の最大化という観点に政策的要素を加味した。これは政策それ自体が政党の選好の表明であるから、ポストなどの分け前と政策実現の度合いの組み合わせから得られる利得の最大化を問題にした(これを「最小連結勝利連合」という)。

 つまり、「最小勝利連合」は過半数により近い議席数となる連合だが、「最小連結勝利連合」は政策上の違いがより少なくなる連合を意味する。

 いま、議席数のより多い日本維新の会より国民民主党が与党との優先交渉権を得て注目されているが、それは、ライカーモデルに従えば当然だし、加えて政策的な折り合いが良いという判断もあるのだ。

 国民民主党の掲げた基礎控除等103万円の引き上げは、デフレからインフレに移行した日本経済にあって極めて合理性の高い政策であり、与党の幹部も一理も二理もあると認めざるを得ない。ところが日本維新の会の掲げる高校授業料の所得制限なし無償化は、これまでの政府与党の政策と基本的に相いれない。

>>後編「日本維新の会、宙づり国会でなぜ孤立した?与党も国民民主も遠のく迷走の果て」へ続く(2025年1月7日公開予定)