売れるクルマのなかった三菱を大きく変えた「アウトランダーPHEV」
三菱自動車といえば、2000年と2004年の2度のリコール情報隠蔽、2016年の燃費偽装と、経営を揺るがすスキャンダルをたびたび起こしたことは、今なお多くの人の記憶に残っている。
2016年に日産傘下入りしてからもなかなか禊(みそぎ)を果たしきれないまま苦境が続いた。今日の日産の状況を表す言葉のひとつに「売るクルマがない」という状況があるが、三菱自動車は今の日産どころではない売るクルマのなさだった。
その状況が大きく変化したのは、2021年末にプラグインハイブリッドタイプのSUV「アウトランダー」を発売してからだ。中心価格帯が500万円超という高額モデルであるにもかかわらず、販売台数は当初の想定を大きく超えた。当時、古株の三菱自動車社員が「前に販売好調というプレスリリースが出たのはいつのことだったか思い出せないほど久しぶり」と語ったほどだ。
大衆商品であるクルマの販売動向はすべてが論理的に説明のつくものばかりではない。“水モノ”と称されるように、たまたま仕様やデザインが顧客の心をつかんだ、あるいは「はやり廃り」というファクターもある。アウトランダーにももちろんそういう要素はあった。
それを前提としてなおアウトランダーが注目に値するのは、その成り立ちだ。アウトランダーのPHEVモデルが初めて登場したのは2012年のことで現行は第2世代だが、両車の間には大きな違いがある。
第1世代が三菱自動車の自前技術で固めたモデルだったのに対し、現行はルノー=日産アライアンスのモジュールアーキテクチャ「CMF-C/D」を用いて作られているという点だ。
ルノー=日産のモジュールにはいくつかのサイズがあるが、中大型車にも使えるこのCMF-C/Dは日産主導で作られた。当の日産はこれを使って「エクストレイル」をリリースしている。血縁的にはエクストレイルとアウトランダーは兄弟車ということになるが、実際にドライブしていると両モデルのテイストはかなり異なる。
アウトランダーの商品性はさながら高級SUVだ。三菱自動車は高級車作りに長けているわけではないので、内外装の装飾性に関してはいささかちぐはぐなところもある。が、そんな弱点を吹き飛ばすような長所がある。それは静粛性の高さだ。
停止状態でアウトランダーのアクセルペダルを踏むと、クルマが音もなく水平移動するという感じで走り出す。テストドライブしたユーザーの多くが一発で異次元と感じるであろう静けさである。
2021年発売の初期型は速度域が上がるにつれて賑やかになっていく傾向があったが、先般発売された大規模改良版ではその静粛性が中高速域まで拡大されたような印象を受けた。遮音性の高い窓ガラスを使っているためか、高速巡航時も風を巻く音が非常に小さく、外界と隔絶された部屋が水平移動しているという雰囲気だった。
日産は日産でエクストレイルを電動AWD(4輪駆動)などの技術で滑らかかつ静かなクルマに仕立てている。両モデルの特性を簡単な言葉で表現すると似た方向性を目指しているように感じられるが、実際には完全に別物。あらかじめ言われなければ、プラットフォームが同じとはほとんど誰も気付かないだろう。
「独自のプラットフォームでのクルマ作りは『エクリプスクロス』が最後。第2世代アウトランダーからはルノー=日産のモジュールを使うことになっていました。当初は思うようにクルマ作りができるのか、誰もが不安を抱えていましたが、開発を進めるうちに『あれ、結構いけるんじゃない?』と思うようになりました」(三菱自動車のエンジニア)