所帯は大きくないが存在価値は意外に大きい「国民民主党」的な立ち位置

 自動車メーカーにとって特色ある独自技術を持つことは競争力の源泉のひとつだが、独自であることが自己目的化しては何もならない。大切なのは今使えるものを利用して自らがいいと考える商品を作り、多くの人に共感してもらうことだ。

 三菱自動車の場合も自前のプラットフォームを失い、他社のプラットフォームを使うしかない状況に追い込まれたわけだが、そこで腐ってしまっていたら今の小康状態はなかったのは間違いない。

 大資本に組み敷かれながらもそれを利用して大きな成果を上げるという、言うなれば“コバンザメ戦法”は元来、スズキが得意とするスタイルだった。

 スズキはかつては極東の軽自動車メーカーに過ぎなかったが、今や年産300万台超。低価格車のみでトヨタと同等の利益率を叩き出すグローバル企業に変貌した。三菱自動車も今は年産80万台弱にすぎないが、やり方次第でもっと上を狙える可能性は十分にある。

 ホンダと日産の経営統合が実現するかどうかはまだ確定していないが、実際に統合するとなった場合の懸念材料のひとつはホンダの“協業下手”にある。

 今はさすがにかつてのような単独主義ではなく、いろいろな企業とコラボレーションを行っているが、アメリカのゼネラルモーターズとの協業は雲行きが怪しく、ソニーとのバッテリー式電気自動車ブランド「アフィーラ」も2025年の正式発表でどのくらい存在感を発揮できるかは未知数だ。

ソニー・ホンダモビリティが公開した「AFEELA(アフィーラ)」の試作車(2024年1月)ソニー・ホンダモビリティが公開した「AFEELA(アフィーラ)」の試作車(2024年1月、写真:共同通信社)

 ともするとホンダによる日産支配のようにもなりかねない新アライアンスの中で、アライアンスの成果物を使う側に立ったことのある三菱自動車の視点はそんな複雑な関係の“潤滑剤”となり得る。両社のプラットフォーム共通化の際には、中立の立場から開発ポリシーを判定するという役割を担うこともできるだろう。

 所帯は大きくないが存在価値は意外に大きく、ちゃっかり利益を稼ぐ。そんな国民民主党的な立ち位置の三菱自動車が今後どのような振る舞いを見せるか、興味深いところだ。

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。