「マネーボール」の功罪

 資金力の乏しいオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMが、独自の指標に基づいて選手を獲得しチームを強化していったストーリーだ。わかりやすく言えば、例えば打撃における打率、打点、本塁打で突出した選手の争奪戦では、豊富な資金を持つ球団に太刀打ちできない。そこで打率よりも「アウトにならない確率」を重視して出塁率や塁打数などの指標に着目して隠れた有能選手の発掘につなげた。

映画「マネーボール」の一場面。データに基づく野球を世に知らしめた(写真:Ronald Grant/Mary Evans/共同通信イメージズ)

 お金のない球団がデータ重視の独自のスカウティングで金満球団を倒す様は爽快だが、データ野球は次第に他球団にも浸透していく。

 近年は、軍事レーダー技術を転用した「スタッドキャスト」と呼ばれるデータ解析システムが導入され、投手のボールの回転数や、打者が放つ打球角度や速度などあらゆるデータが計測でき、可視化されるようになった。

 有名なのが、「打球速度が時速158キロ以上、打球角度が26~30度で上がった打球が最もヒットやホームランになりやすい」領域として名付けられた「バレルゾーン」だ。いち早く取り入れたヒューストン・アストロズが17年、ワールドシリーズを制覇したことで、瞬く間に各球団へと広まった。

「バレルゾーン」への打球は、ボールに対して、バットをアッパースイングの軌道で繰り出すイメージとなる。スイング軌道から必然的に本塁打が増えた一方、対応に効果的とされた高めのまっすぐで打者の三振も増加。「本塁打か、三振か」と大味な野球を加速させた。

 日本が06年、09年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を制した際の、それぞれの打順に役割を持たせ、小技を駆使した「スモール・ベースボール」とは対極にある。これが、松井氏の「打順の意味が薄れた」という発言につながっているといえるだろう。