もしイチローがデータ時代にプレーしたら…

「安打製造機」と呼ばれたイチロー氏と、スラッガーとして名をはせた松井氏は体型もスタイルも全く異なるプレーヤーだった。

 イチロー氏は細身の体をどう使えば最大限のパフォーマンスを発揮できるかに思考をめぐらせ、打撃や走塁、守備の技術を高めてきた。情熱大陸でも紹介された「しなやかな肉体」を作り、維持していくためのマシンは、パワー重視の筋力トレーニングとは性質が異なる。

母校で野球教室を開催し、子どもたちを指導する松井秀喜氏(写真:共同通信社)

 現役時代には、データの上では「打ち損じ」と記録されるようなボテボテの内野ゴロから、自慢の俊足でいくつもの内野安打を生んできた。レーザービームと呼ばれた外野からの好返球は肩の強さだけではなく、走者との駆け引きによって球場が沸く幾多の捕殺シーンを演出した。

 もしも、可視化されたデータ重視の時代なら、細身のイチローはどんな評価を得ただろうか。

 もちろん、可視化されたデータによって、野球の新たな「評価軸」が掘り起こされた点は見逃せない。イチロー氏も全てを否定しているわけでなく「必要な時にそれ(データ)はONにすればいいけど、常にある状態、見えるところにあるので頭を全然使ってない」と指摘した上で、データに頼り切ることで「感性が失われた」と嘆く。

 松井氏も自らがメジャーで生き残るために「感性」を大事にした。日本屈指のホームラン打者は海の向こうでは、一発にこだわらず「勝負強い打撃」に活路を見いだした。