自治体トップの意識次第で格差も
「正直、ショックだった」
茨城県内で有機農業に従事する男性は、常陸大宮市でのフォーラムに参加して、参加市町村と自分のいる街との差に愕然とした。男性は、子どもたちの学校給食に有機農産物を使ってもらおうと、市長や農協の組合長のもとを訪ねたが、積極的な態度が全く見られなかったという。
上がる単価の負担問題など数々の課題があることから、彼らが前向きになれない事情にも一定の理解はしているつもりだ。
ただ、フォーラムで報告された各地の事例に共通していたのは、「トップがやると言って動き出した」という事実だ。男性は、その見込みの薄い市町村で頑張っている有機農家はどうすればいいのだろう、と肩を落とす。
「常陸大宮市のフォーラムにも、まだ取り組みを始めていない市町村の関係者がたくさん来ていたようですが、あの盛り上がりを見せつけられると、『よし!うちでもやるぞ』となるじゃないですか。でも、自分のところの市長は来ていない。やるところと、やらないところの差が大きくなりそうですよね」
同じ給食なら、オーガニックの方がいい。住む場所を選べるなら、子どものためにオーガニック給食を実施している市町村に人が集まるかもしれない。有機農家も、安定した受け入れ先があるエリアに活路を見出し、移れる人は移っていくだろう。
結果として、オーガニック給食を実施する市町村は活気のある豊かな街になり、そうでない市町村は……。そう予想する男性の表情は厳しい。
オーガニック給食は、有機農業の拡大にとどまらず、今後の街づくりにも重要なファクターとなりそうだ。
益田 美樹(ますだ・みき)
ジャーナリスト。英国カーディフ大学大学院修士課程修了(ジャーナリズム・スタディーズ)。元読売新聞社会部記者。著書に『日本語教師になるには』『チャイルド・デス・レビュー: 子どもの命を守る「死亡検証」実現に挑む』(共著)など。調査報道グループ「フロントラインプレス」所属。