新鮮組・岡本社長がオープンした農家レストラン「Tomte Odla」の物販コーナー(撮影:井上久男)
  • トヨタ自動車の城下町、愛知県田原市で30年近く前から「儲かる農業」を実践している人物がいる。農業生産法人・有限会社「新鮮組」の岡本重明社長だ。
  • 農業の資材調達から生産、販売に至るまで農協に一切頼らず、独自の「企業経営」を推進。自身のビジョンを広げるために市議会議員にもなった。
  • かつて周囲から「変人」と呼ばれ、嫌がらせも受けた。だが、ここにきて「意外と正しい」と理解が広がりつつある。3月3日には「農家レストラン」もオープン。異端児が農業を変え始めた。(JBpress)

(井上 久男:ジャーナリスト)

 2023年の日本の農産物・食品輸出額は、前年比2.9%増の1兆4547億円となり、過去最高を記録した。輸出相手は、1位が中国、2位が香港、3位が米国。前年比で大きく輸出額が伸びたものは、米や緑茶、イチゴ、ナガイモなどだった。

 日本食ブームなどもあって日本の食材が海外で求められることも輸出増に貢献しているとみられる。コスト・品質管理力をさらに磨けば、日本の農業は輸出産業として大きく成長できる可能性がある――。

 こんなことを言っても、今では珍しくもないが、30年近く前から農業の国際化などを唱え、「儲かる農業」を推進してきた人物がいる。愛知県田原市に拠点を構える農業生産法人・有限会社「新鮮組」の岡本重明社長(62)だ。

 新鮮組は1993年に設立され、愛知県内では1番目か2番目に古い農業生産法人と言われ、岡本氏は早くから農家の「企業経営」を推進してきた。

 たとえば、若い頃から岡本氏は、販売増とコスト管理を意識して、農協に頼らず野菜の販売先を自分で開拓し、借り入れも農協ではなく事業計画書を書いて都市銀行などから借りてきた。

岡本重明氏(撮影:井上久男)

 土の改良剤やトラクターの爪など、農協・メーカー経由で買えば高くつくことを回避するため、自らリスクを取って海外に出向き、品質は同等で価格が安い資材を仕入れてきた。そして、それを自分が使うだけではなく販売するビジネスも手掛けてきた。タイやインドネシアで米栽培の指導経験もある。

 岡本氏は2019年、地元の田原市議会議員選挙に立候補して当選、農業をしながら現在2期目を務めている。

 その岡本氏が今年3月3日、念願の農家レストラン「Tomte Odla」を地元でオープンさせた。北欧の言葉から氏が造語した店名には「農家を守る妖精」という意味があるという。

 朝日新聞記者として赴任した初任地で知り合って以来、筆者は30年以上岡本氏と付き合いがあってオープンの案内が届いたので、のぞいてみた。